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公開日:2024.06.27

更新日:2023.09.21

短期間の労働者でも社会保険加入できる?加入の要件とは

事業規模の拡大とともに気になるのが社会保険への加入です。短時間(短期間)労働者の扱いに困っている方は多いでしょう。

結論から述べると、加入の必要性はケースにより異なります。加入の要件を理解したうえで対処することが重要です。

ここでは短時間労働者が社会保険へ加入しなければならない要件、事業所が加入手続きを行わなかった場合のリスク、短時間労働者が社会保険の加入を防ぐ方法などを解説しています。

具体的な対処法を知りたい方は参考にしてください。

短期間の雇用でも社会保険に加入可能

 

社会保険は狭義と広義で範囲が異なります。狭義の社会保険は、健康保険・厚生年金保険です。ここでは、短時間労働者における両保険の加入について解説します。

短時間労働者(パート・アルバイトなど)も、週所定労働時間および月所定労働日数が常用雇用者の4分の3以上の場合は、社会保険に加入しなければなりません

また2022年から、これらが4分の3に満たなくても、一定の要件を満たす場合は加入が義務付けられました。具体的な対象は、従業員数(厚生年金保険の適用対象者数)101人以上の企業に勤めていて、次の要件をすべて満たす方です。

週の労働時間が20時間以上

常用雇用者の4分の3未満であっても、週所定労働時間が20時間以上の方は社会保険の適用対象になる可能性があります。週所定労働時間に残業時間は含みません。

また、1週間の労働時間が20時間未満であっても、実際の労働時間が2カ月連続週20時間以上で、今後もこれが続くと考えられる場合は、3カ月目から社会保険の適用対象になります。

関連記事>>社会保険加入は労働何時間から?押さえておきたい加入の要件

雇用期間が原則2か月以上

2022年10月から、短時間労働者における勤務期間の要件が変更されています。

具体的には「継続して1年以上使用される見込み」から「継続して2カ月を超えて使用される見込み」になりました。したがって、原則として雇用期間が2カ月を超える見込みがあることが社会保険加入の要件になります。

ただし、雇用期間が2カ月以内であっても社会保険の加入要件を満たす場合があります。詳細については個別の確認が必要です。

学生ではない

大学をはじめとする学校の学生ではないことも適用対象の要件です。ここでいう学校は修業年数1年以上の課程に限ります。また、休学中の学生や夜間学生は社会保険の適用対象となっています。学生であれば無条件で適用対象外となるわけではありません。

1か月の賃金が8万8,000円以上

以上に加えて、月額賃金が8万8,000円以上であることも適用対象の要件となっています。年収に換算すると約106万円以上です。ここでいう月額賃金に、時間外労働手当、休日労働手当、賞与、通勤手当、皆勤手当てなどは含みません。

対象となる従業員を把握したい場合、月額賃金を正確に算定することが重要です。

参考:日本年金機構|短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内

2024年10月に適用範囲拡大

 

2024年10月から適用対象となる企業が拡大されます。具体的には、従業員数(厚生年金保険の適用対象者数))が101人以上から51人以上(1年のうち6カ月以上)へ変更されます。

該当する企業では、変更に伴い社会保険の適用対象になる労働者が増える可能性があります。保険料の負担額などにも影響するため、該当する企業は事前に詳細を確かめて準備を進めておかなければなりません。

社会保険の種類

 

社会保険は、政府などが管理監督者となり、病気・老齢・失業などの保険事故が起きたときに保険給付を行い生活の安定を図る公的な制度です。前述の通り社会保険は狭義と広義で範囲が異なります。広義の社会保険は以下の5つで構成されます。

【社会保険】
  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
  • 労災保険
  • 雇用保険

各保険の概要は次の通りです。

健康保険

一般企業などに勤めている労働者とその家族(被扶養者)を主な対象とする公的な医療保険制度です。

病気や怪我で治療を受けるとき、立替払いをしたとき、病気や怪我で仕事を休んで事業主から十分な報酬を受けられないとき、出産したとき、死亡したときなどに保険給付を受けられます。

保険料は、標準報酬月額と標準賞与月額、保険料率をもとに算出します。保険料負担は労使折半です(企業と従業員で50%ずつ負担)。

介護保険

65歳以上の被保険者は市町村が行う要介護認定で介護が必要とされたとき、40歳以上65歳未満の被保険者はがん、骨折を伴う骨粗しょう症、初老期における認知症など16種類の特定疾病で介護が必要とされたときに介護サービスを受けられる公的な介護保険です。

40歳以上65歳未満で医療保険加入者は第2号被保険者、65歳以上の方は第1号被保険者となります。医療保険に加入している場合、保険料は医療保険とあわせて徴収されます。

保険料の徴収が始まるタイミングは40歳になった月です。健康保険に加入している方の保険料は企業と従業員で50%ずつ負担します。

厚生年金保険

民間企業などに勤めている労働者が加入する公的な年金保険です。

国民年金にプラスする2階建て部分にあたります。

つまり、厚生年金保険に加入することで老後に受けられる年金給付を手厚くできます(国民年金分と厚生年金分を受け取れるため)。

給付額は、労働者の給料と厚生年金保険の加入期間で異なり、現役時の賃金が多いほど給付額も多くなる傾向があります。給付額、保険料とも賃金に比例するためです。

ただし、所得を再分配する仕組みが組み込まれているため、現役時代の賃金差がそのまま給付額に反映されるわけではありません。

厚生年金保険も、保険料は労使で折半します。

労災保険

業務や通勤に起因する労働者の病気・怪我・障害・死亡に対して必要な保険給付を行う公的制度です。具体的には、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、介護(補償)給付などを受けられます。

例えば、休業(補償)給付では、所定の要件を満たすと給付基礎日額の80%が支給されます。対象となるのは、農林水産の一部の事業を除き、短時間労働者を含め、労働者を1日・1人でも雇用している事業所です。

保険料は、賃金総額に事業の種類で異なる労災保険料率を乗じて算出します。全額事業主負担になる点がポイントです。

雇用保険

労働者が失業したときや労働者の雇用継続が困難になる事由が生じたときなどに、雇用と生活の安定などを図るため保険給付を行う公的な制度です。具体的には、失業等給付、育児休業給付などを受けられます。

例えば、失業等給付には基本手当、就業促進手当、教育訓練給付金、介護休業給付などがあります。適用の対象となるのは、労災保険の加入者で週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上雇用される見込みがある方です。

保険料は、賃金総額に雇用保険率を乗じて求めます。一般事業における2023年度の雇用保険料率は労働者負担が1000分の6(失業等給付・育児休業給付の保険料率のみ)、事業主負担が1000分の9.5です。[1]

加入対象者が未加入だったときのペナルティ

 

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用対象者が在籍しているにもかかわらず加入手続きを行わなかった場合、年金事務所などから加入指導を受けます

これに従わないと、立ち入り検査を実施されて強制加入手続きが行われます。

保険料は、最大で2年前までさかのぼって追徴されます。悪質と判断されると刑事罰を科される恐れがある点にも注意が必要です。

具体的には、6カ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処されることがあります。

社会保険加入を避ける方法

 

何かしらの理由で社会保険の加入を避けたいと考えている方もいるでしょう。ここでは加入を避ける3つの方法を紹介します。

方法①労働時間を抑える

従業員数101人以上の企業で勤めている労働者は、1週間の労働時間を20時間未満に調整すると強制的な加入を防げます。20時間以上が適用対象の要件になっているためです。

ここでいう週所定労働時間は、雇用契約書などで定められた通常の週に勤務する労働時間を指します。残業などイレギュラーな労働は含みません。

関連記事>>残業で発生した未払い賃金の計算方法とこれが認められないケース

方法②月の収入を抑える

1カ月の賃金を8万8,000円未満に抑えることも有効な対策です。

従業員数101人以上の企業で勤めている労働者は、この金額を超えると社会保険の適用対象者になるためです。

ここでいう賃金に、時間外労働などを対象とする割増賃金、1カ月を超える期間ごとに支払われる賞与などは含まれません。

1カ月の賃金を正確に算出することが重要です。

方法③2か月未満の短期で働く

「継続して2カ月を超えて使用される見込み」があると社会保険の適用対象者になる可能性があります。

強制加入を避けたい場合は、この期間を超えないように調整するとよいでしょう。

社会保険の適用事業所

 

社会保険加入について検討するときに押さえておきたいのが強制適用事業所と任意適用事業所の違いです。ここからは、両者の概要を解説します。

強制適用事業所

法律で社会保険へ加入することが義務付けられている事業所です。

具体的には、法人の事業所、農林漁業、サービス業などを除く常時5人以上の従業員(社会保険の適用対象者)を使用する事業所が該当します。

強制適用事業所は、社会保険の加入手続きを行わなければなりません。

任意適用事業所

強制適用事業所以外で、厚生労働大臣の認可を受けて社会保険の適用対象になった事業所です。

申請にあたり、従業員の半数以上から同意を得なければなりません。

認可後は、適用対象者全員が社会保険に加入することになります。

保険料、保険給付などは強制適用事業所と同じです。

参考:日本年金機構|適用事業所と被保険者

社会保険加入はルールに従い行いましょう

 

この記事では社会保険加入について詳しく解説しました。短時間(短期間)労働者も、一定の条件を満たすと社会保険へ加入しなければなりません。

具体的には、週所定労働時間が20時間以上、月額賃金が8万8,000円以上などを満たすと社会保険へ加入することになります。必要な加入手続きを行わないと、事業所はペナルティを課される恐れがあります。

保険料負担が重くなるとしても、ルールに従い社会保険へ加入することが重要です。

労務に関するご相談ならHRプラス社会保険労務士法人へお問い合わせください。

 

[1] 出典:厚生労働省「令和5年度雇用保険料率のご案内

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