これから上場を考えている法人の方に向けて、ハラスメントの事後対応に関する適切な対応について解説する記事です。
ハラスメントが発生すると、被害者に対するケアが必要となることはもちろん、加害者や企業も懲戒処分、風評、レピュテーションなどの影響を免れることはできません。 そのことで重要な人材が失われたり、企業としての信頼を失ったりすることもあるでしょう。
そこで知っておきたいのが、ハラスメント発生後の事後対応です。
今回の記事では、ハラスメント発生後の適切な対応と懲戒処分の方法を解説します。 再発防止措置についてもご紹介しますので、参考にしていただければ健全な企業をつくりあげられるはずです。
ハラスメントについて
ハラスメントとは「相手に嫌な思いをさせること」「相手の尊厳を傷つけること」を指します。
一般的には嫌がらせやいじめなどの迷惑な行為のことです。
しかし意図的に行われていない場合でも、相手が「嫌だ」との感情を抱けばハラスメントに該当する可能性があります。
つまりハラスメントは、自分にそのつもりがなくても、相手が嫌だと感じた時点で成立してしまうことがあるのです。
ハラスメントの発生件数
ハラスメントの発生件数は、令和4年度で50,840件にも上りました。
出典:厚生労働省:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します
しかし50,840件という数字は、総合労働相談として明るみになったもののみで計算されています。
実際に相談をしなかった方の中にも、ハラスメントを受けている人はいるでしょう。
数字の中に含まれていないハラスメントも含めると、相当な数になるはずです。
ハラスメントの種類
ハラスメントにはさまざまな種類があります。
パワーハラスメント |
職場における地位の有意差を利用して、他従業員にストレスを与えること |
セクシャルハラスメント |
性的な言動や行為を行い、拒否した場合に職場における不利益を与えること |
マタニティハラスメント |
妊娠・出産に関する制度を利用した場合に嫌がらせを行ったり不利益を与えること |
育児・介護ハラスメント |
育児休業、介護休業等に関する制度を利用した場合に嫌がらせを行ったり不利益を与えること |
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントが代表的ですが、マタニティや育児・介護に対するハラスメントも見られます。
ハラスメントが発生した場合、企業にまで大きな被害が及ぶことがあります。
被害者は心に大きな傷を負い、さらに仕事を失う可能性も高いでしょう。
さらにハラスメントがある企業では、社員の士気が減退し、生産性が低下するとも言われています。
以上のようにハラスメントにはさまざまな種類があります。
しかしいずれにしても、企業の経営に悪影響をもたらすものだと言えるでしょう。
ハラスメントが発生したときの注意点
それではハラスメントが発生した場合、どのような点に注意するべきなのでしょうか?
ハラスメント行為者への対応や、その後の対処について見ていきましょう。
注意点1:発覚した時点ではハラスメントだと決めつけない
まずは発覚した時点で「ハラスメントである」と決めつけないことが大切です。
訴えを聞いたとしても、本当にハラスメントであったかどうかの事実を明らかにすることを重視してください。
発覚したときには、ハラスメントをされたと訴える人の話しか聞いていないはずです。
行為者とされた側が、どのような状況でどのようなことをしたのか確認しなければ、ハラスメントとは判断できません。
事実関係を確認した後に、ハラスメントの基準に照らし合わせてから判断をしましょう。
注意点2:相談者の精神状態に配慮する
ハラスメントであると判断できたなら、相談者の精神状態には十分に配慮するようにしてください。
心の傷は目には見えず、周りが思う以上に深刻なこともあります。
相談を聞く際には、相談者に落ち度があるような言葉は避けるように注意しなければなりません。
相談内容を受け取ったら、場合によっては医療的な支援へとつなげるようにしましょう。
相談者の精神状態に配慮しながら、相談を受けることが大切です。
注意点3:守秘義務を徹底する
ハラスメント被害の相談を受けた際には、守秘義務を徹底することも大切なポイントのひとつです。
相談内容を他の社員に口外すると、相談者の心の傷がさらに深くなったり、会社にいづらくなったりするかもしれません。
非常にセンシティブな問題なので、もし情報を提供するなら、次につなげる相談窓口のみとしましょう。
注意点4:中立の立場でヒアリングを実施する
最後の注意点として、ハラスメントの行為者と相談者からヒアリングを実施するときは、中立の立場で聞くことを忘れないようにしてください。
どのような状況で、どのようなことが行われたのか、冷静に判断するためには中立であることが欠かせません。
相談者側をかばいたくなる状況もあるかもしれませんが、ハラスメント行為者は、自分がハラスメントをしていると気がついていないことも多いものです。
中立の立場に立ってヒアリングを実施しなければ、行為者側の心の傷が深くなることもありますし、冷静な判断ができなくなります。
関連記事:職場におけるハラスメントの防止方法と相談をうけたときの対処法
ハラスメント行為者へのヒアリングする際の注意点
それでは次に、ハラスメント行為者へのヒアリングをする際の注意点について解説していきます。
注意するべきなのは、次の4つのポイントです。
注意点1:相談者の承諾を得る
ハラスメントの相談を受けたら、まずは行為者にヒアリングをしても良いか、相談者からの承諾を得るようにしてください。
相談者は相談をしたことを、行為者に知られたくない可能性もあります。
報復されるのでは、さらにハラスメントが強まるのではと危惧しているかもしれません。
職場での人間関係に亀裂を残したくないと考えている可能性もあるため、相談を受けたら相談者と行為者の両方からヒアリングをするのが基本です。
しかし行為者側へのヒアリングをする際には、相談者から必ず承諾を得てから行うようにしましょう。
注意点2:ヒアリングの目的を伝える
ハラスメント行為者へのヒアリングを行う際には、目的を伝えることが大切です。
もし行為者にハラスメントの自覚がなかった場合、ヒアリングを断られることもあります。
そのため「事実確認のためであること」を明確にしたうえで、ヒアリングを行うことを伝えてください。
注意点3:プライバシーに細心の注意を払う
ヒアリングはプライバシーに細心の注意を払いながら行うようにしましょう。
相談者側はもちろん、行為者側でも尊厳は守られなければなりません。
他の人から見えず、声も漏れない個室で行うようにして、部外者に話の内容を聞かれないようにしてください。
事実確認の時点でハラスメントが噂になってしまっては、行為者側にも大きな精神的負担がかかることがあります。
必ずプライバシーを守れる環境を準備した上で、ヒアリングを行うことが重要です。
注意点4:ヒアリングが直接処遇に影響するわけではないと伝える
最後の注意点は、直接処遇に影響するヒアリングではないことを伝えておくことです。
あくまでも事実確認だけであることを理解してもらえれば、質問に答えてもらいやすくなります。
処遇に影響するかもしれないとの考えから、ヒアリングを拒否してくることもあるかもしれません。
あらかじめ処遇に影響しないことがわかれば、協力体制を取ってもらえることが多くなるでしょう。
関連記事:ハラスメント(パワハラ)における会社の責任と講じておくべき措置
ハラスメントの行為者への対応
ハラスメント行為者からヒアリングを行って事実確認をした後、行為者に対してどのように対処するべきでしょうか。
相談者がさらなる被害を受けないようにするため、次の2つの対応が望まれます。
対応1:相談者から隔離する
まずは相談者から隔離することを考えてください。
お互いが接触してしまうと同じことが繰り返されてしまいます。
また相談者の中には、行為者の顔を見ただけで恐怖を感じるケースもあるかもしれません。
行為者が相談者に接触しようとすること自体が、許されないことであると理解してもらってください。
たとえ謝罪したいとの理由であっても、相談者からの承諾を得た上で行われるべきです。
席を移動させる、在宅ワークに切り替えるなど、物理的に相談者と行為者が接触できない環境を作ることも必要でしょう。
対応2:相談者への報復を禁止する
相談者への報復を禁止することも重要事項です。
ハラスメント行為者の中には、相談されたことに腹を立て、報復行為に及んでしまう人もいます。
報復が行われれば、ハラスメント被害は拡大する一方です。
ヒアリングを行う際には、「報復的なことは一切してはならない」ことを明確に伝えましょう。
今までと同じ行為を続けることも、事実上の報復となるため禁止であることもあわせて示してください。
ハラスメントが確認できた場合の加害者への処分
続いてはハラスメントが確認できた場合の、加害者への処分について解説します。
労働契約法第15条により、重すぎる懲戒処分は無効となります[1]。
そのため事の重大さを見極めて、慎重に処分を下すことが必要です。
企業や状況によってさまざまに考えられますが、主に次の4つのパターンいずれかで処分するのが基本です。
処分1:懲戒解雇
ハラスメントの程度が重かった場合、懲戒解雇処分を検討してください。
ただし最も重い処分であるため、懲戒解雇処分は慎重に行われなければなりません。
ともすれば加害者側から訴訟を起こされたり、企業の信用が失墜してしまったりする可能性もあるためです。
懲戒解雇処分を下す際には、次のようなことを確認し、処分に値するかどうかを判断しましょう。
【判断するポイント】
- ハラスメントの内容と頻度
- 被害者の状況と精神状態
- 加害者の反省の有無
- 加害者の過去の処分歴
- 企業内での他事例との比較
以上の5つのポイントから考えて、懲戒解雇にするべきかどうかを検討してください。
処分2:配置転換
ハラスメント加害者への処分として、配置転換が行われることがあります。
配置転換は被害者との接触がなくなるため被害者の安全が確保され、さらに加害者への処分も行える方法です。
配置転換処分には2種類あります。
懲戒処分を理由として行われる場合と、人事上の措置として行われる場合の2つです。
もし人事上の措置として行う場合は、合理性のある理由が必要となります。
また配置転換は被害者側ではなく、必ず加害者側に対して行ってください。
処分3:減給
もうひとつ考えられる処分方法が減給です。
処分の中でも軽いものであり、ハラスメントに対して加害者が反省・謝罪をしている場合などに下される処分となります。
しかし注意点として、減給をする場合には労働基準法第91条で認められている範囲内にしなければなりません。
(制裁規定の制限) 第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上記の金額以内に収まるように減給を行います。
処分4:戒告・譴責・訓告
最も軽い処分であるのが戒告・譴責・訓告です。
ハラスメントがそれほど重大ではなく、加害者が反省している、被害者も謝罪を受け入れたなどのケースで採用されます。
厳重注意のみで留める処分であり、加害者側への実質的な不利益はありません。
ハラスメントの再発防止措置
ハラスメントの再発を防止するには、定期的な面談やハラスメント研修の実施が効果的です。
加害者は無意識のうちにでも、またハラスメントを繰り返してしまうかもしれません。
そこで重要になるのが、事実を風化させないようにするとともに、ハラスメントの知識を身に着けさせることです。
特に無意識に行ってしまっていた場合であれば、ハラスメントに関する知識が不足していると考えられます。
定期的な面談と研修によって指導を続けていけば、再発する可能性は低くなるでしょう。
ハラスメント加害者には適切な対応と再発防止措置を
いかがでしたでしょうか?
この記事を読んでいただくことで、ハラスメント加害者への適切な対応がご理解いただけたと思います。
問題が起きたときにまず意識するべきは「適切さ」です。
適切な対応と懲戒処分を実施し、再発防止措置を練りましょう。
HRプラス社会保険労務士法人ではハラスメントをはじめとする労務問題相談に対応しています。
ハラスメント加害者への対応にお困りなら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
[1]x参照:e-GOV:労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)
コラム監修者
特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年にわたり、200件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演
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