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公開日:2024.07.30

更新日:2024.08.30

外国人労働者と社会保険制度の関係と雇用の際に注意したいポイント

上場を検討している法人の方に向けて、外国人労働者と社会保険加入の関係性について解説します。

他国の人を雇う際に多くの方が悩むのが、「社会保険加入させるべきか?」という点です。 日本人労働者と同じ条件で加入させるべきなのか、特殊な基準があるのか、厚生年金への加入は必要なのか…。
さまざまな点で悩むのではないでしょうか?

そこで今回の記事では、他国の人の社会保険加入についての基礎知識を解説します。
参考にしていただければ、外国人を雇用する際にも迷うことなく、社会保険制度の申請が行えるようになるでしょう。

日本の社会保険制度について

日本の社会保険制度には、大きく分けて以下の2種類があります。  

社会保険

健康保険

厚生年金保険

介護保険

労働保険

雇用保険

労働者災害補償保険

一般的に「社会保険」と呼ばれるのは、広義には健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労働者災害補償保険(労災保険)の5つを指しますが、狭義においては、健康保険・厚生年金保険・介護保険を意味します。「雇用保険」や「労働者災害補償保険(労災保険)」は社会保険ではなく、労働保険としてまとめられています。

企業ごとに「社会保険」への認識は変わることがあります。
ただし社会保険の基本となるのは、健康保険厚生年金保険介護保険です。

外国人労働者と社会保険制度の関係

それでは外国人労働者と広義の社会保険制度の関係はどのように定められているのでしょうか?
条件を満たせば、他国の人であっても日本人労働者と同様に加入が必要となります。
他国の人を雇っている企業に向けて、どのような条件で加入が必要となるのか、それぞれの社会保険について見ていきましょう。  

①健康保険

まず健康保険については、資格取得届を提出することにより、健康保険に加入できます。
健康保険とは怪我や病気によって医療機関を受診した際の自己負担額が、3割に抑えられる制度のこと。
健康保険を含む社会保険の加入適用条件は次のとおりです[1]。

【社会保険加入適用条件】
■原則
正社員などフルタイム労働者及び週所定労働時間及び月所定労働日数がフルタイム労働者の4分の3以上の者
■従業員数101人以上(2024年10月から従業員数51人以上)の法人で働く、以下のすべてを満たす者

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上・30時間未満であること
  • 月額88,000円以上の所定内賃金が発生すること
  • 2か月を超える雇用であること
  • 学生ではないこと

以上の条件を満たしていれば、他国の人の方でも社会保険加入ができます
労働者の健康を守るのは、雇用主にとっての義務とも言えるでしょう。
医療機関で全額負担ともなれば、被雇用者は病院に行くことをためらってしまうかもしれません。
健康保険に加入して3割負担で受診できるなら、他国の人もすぐに受診できるようになります。

しかし条件を満たしていない場合でも、「国民健康保険」への加入が可能です。
健康保険には、健康保険と国民健康保険の2種類があります。
健康保険は企業と被雇用者が支払いを折半しますが、地域保険である国民健康保険は加入者1人のみで支払いを行うものです。

以上のように他国の人であっても、条件を満たせば社会保険の健康保険適用となります。
もし条件が満たされなかった場合でも、国民健康保険に加入できるため医療費の心配はありません。  

②年金保険

続いての年金保険も、他国の人であっても加入しなければなりません。
年金保険には「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金保険」の2種類があります。
国民年金(基礎年金)は、日本に住んでいるすべての人が加入する義務を負う年金制度です。
対して厚生年金保険は、社会保険加入適用条件を満たす企業に雇用されている人にのみ適用されるもの。
つまり自営業者や個人事業主等の場合は、厚生年金保険には加入できません。

厚生年金保険は、被雇用者が将来的に受け取れる年金の金額を上乗せするシステムです。
国民年金(基礎年金)は、2階建て住宅の1階部分と言われています。
そして厚生年金保険は、1階部分の上に積み上げられる2階部分です。
つまり国民年金(基礎年金)だけであれば1階分の年金しか受給できませんが、厚生年金保険②加入していればさらに多くの額を受給できます。

企業と被雇用者が折半して保険料を納めることになるため、企業の支出は増えてしまいます。
ただ要件を満たした場合、健康保険とともに加入が義務付けられているものです。
また被雇用者から見た場合、福利厚生の充実ともなり、人材募集がスムーズに進みやすくなるかもしれません。

もし社会保険加入の条件を満たす企業に雇用されている外国人労働者であれば、厚生年金保険に加入することとなります。
老齢厚生年金の受給年齢まで日本で働くことはない、という場合であっても、厚生年金保険に加入しなければならず、保険料も納付しなければなりません。

しかし、厚生年金保険の支払いを免除する制度も存在します。
「社会保障協定」と呼ばれる制度を利用すれば、他国の人の年金支払額を調整できます。
社会保障協定についての詳しい解説は、最後の方で行います。
しかしいずれにしても、適用対象の企業で働くならば、他国の人でも厚生年金保険には加入しなければなりません。  

③介護保険

社会保険加入する外国人であっても、介護保険には加入しなくても良い場合があります。
介護保険の加入対象は、次の2つを満たす人物であるためです。

【加入条件】

  • 日本への在留期間が3か月以上であること[2]
  • 40歳以上の外国人労働者であること[3]

日本人労働者でも同様ですが、介護保険は40歳以上から加入となります。
そして他国の人の場合は、日本への在留期間が3か月以上であることが条件として課されます。
そのため40歳未満である外国人、日本に3か月以上在留しない外国人は加入できません

社会保険の中でも、加入適用対象として該当する人が少ないと思われるのが介護保険です。
ただし上記でご紹介した2つの条件に該当するならば、他国の人でも社会保険加入とともに介護保険への加入を求められます。
要件を満たしている場合は、介護保険への加入手続きも済ませるようにしてください。  

④雇用保険

雇用保険は日本人であっても外国人であっても、加入の条件は変わりません。
以下の条件を満たすようであれば、国籍を問わず加入が必要です。

雇用保険の適用事業所に雇用される次の労働条件のいずれにも該当する労働者の方は、原則として全て被保険者となります。
1.1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2.31日以上の雇用見込みがあること

出典:厚生労働省:Q&A~事業主の皆様へ~

たとえば3か月雇用する予定であって、週に5日、5時間働けば雇用保険に加入しなければなりません。
フルタイム正社員ではなく、アルバイトやパートタイマーであったとしても同様です。
ただし季節的に一時的に雇用する場合は、加入が不要となることもあります。
もし加入するべきか迷ったら、エリアを管轄するハローワークにてご相談ください。  

⑤労災保険

労災保険は他国の人であっても、必ず対象となります。
雇用形態が正社員であろうとも、パートタイマー・アルバイトであろうとも、従業員を雇う以上は加入しなければなりません
また就労ビザを所持していない外国人や不法滞在者でも、適用されることを知っておいてください。(ただし、不法就労ほう助罪に問われることになります)

労災保険の加入は事業場の義務です。
万が一、加入していない事業場において労災事故が起きた場合、費用徴収がなされます。
他国の人を雇っていて加入していない場合、ペナルティが課されることもあるため注意してください。

関連記事:社会保険加入が適用拡大された後の加入が必要となる要件について

外国人労働者と社会保険制度に関するルール

外国人労働者と社会保険制度に関しては、一定のルールが設けられています。
日本人労働者とはルールが異なるところもあるため、外国人労働者を雇う場合には基礎知識としてルールを把握しておきましょう。  

ルール1:脱退一時金

まずは「脱退一時金」と呼ばれる制度があることについてです。
脱退一時金とは、外国人労働者が社会保険加入制度の資格を失って、日本を離れたときに適用されます。
日本を離れてから2年以内であれば、一時金を請求できる制度です。

たとえば日本に住んでいた外国人労働者が、母国に帰るために住所を変更したとします。
母国に帰ると、日本で支払った社会保険料が無駄になってしまうでしょう。
そこで住所を変更した日から2年以内の間は、脱退一時金の受け取りが可能です。

先に解説したように、日本では年金保険の支払いを、外国人労働者にも課しています。
しかし一時的に日本に在留しているだけの外国人であれば、日本で年金保険の支払いを理不尽に感じるかもしれません。
そのような際に利用できるのが、脱退一時金です。

脱退一時金の請求をすれば、年金保険料として支払った金額の一部を返還してもらえます。
社会保険加入条件を満たした外国人労働者を雇用するなら、ぜひ知っておきたい情報です。  

ルール2:社会保障協定

社会保障協定も外国人労働者だけに適用される制度のひとつです。
一時的に日本で就労する外国人であれば、母国と日本の両方にて保険料を支払うことになりかねません。
年金保険でも同様です。
母国でも年金保険料を支払い、日本でも支払って、では二重負担となってしまいます。
そこで役立つのが社会保障協定と呼ばれる制度です。

社会保障協定では二国間において、重複して保険料を支払うことがないよう調整を行います
たとえば日本で支払った年金保険料にて、母国での年金加入期間の通算が行われるなどです。
国と国との間で、外国人労働者を守るために交わされる協定が社会保障協定です。

ひとつ前の項目で解説した「脱退一時金」は、社会保険加入制度資格を喪失した際に返還を求める制度。
もし社会保障協定を利用するなら、脱退一時金を請求する必要もなくなります。
社会保険加入を避けたいと思っている外国人労働者でも、社会保障協定の説明をすれば加入してもらえるかもしれません。

外国人労働者を雇用する際に気をつけるポイント

外国人労働者を雇用する際に気をつけたいことは、社会保険加入に関することだけではありません。
社会保険以外にも、賃金設定や在留資格の手続き、保険料の納付状況など、さまざまに確認しておきたいことがあります。
日本人労働者と違う手続きが必要となることを知ったうえで、雇用するようにしてください。  

ポイント1:外国人労働者の賃金設定

まずは賃金設定についてです。
外国人労働者の賃金は、日本における最低賃金以上でなければなりません。

企業によっては外国人労働者の賃金を、日本人労働者よりも安く設定することがあります。
しかし外国人労働者は日本企業にとって、なくてはならない労働力です。
各エリア内の最低賃金を下回らないようにすることはもちろんですが、労働環境の改善にも努めるべきでしょう。
外国人労働者が満足して働けるよう、賃金設定に配慮してください。  

ポイント2:在留資格の更新手続き

在留資格の更新手続きについても気をつけたいものです。
外国人労働者は「就労ビザ」がなければ、日本で労働ができません。
しかし現在、就労ビザの更新手続きを行うには、健康保険証を提示する必要があります。
つまり社会保険加入をしていない外国人労働者は、就労ビザの更新手続きができなくなる可能性があると言えるでしょう。

ただし健康保険証の提示は必須ではありません。
就労先の企業が社会保険に加入していない企業であったり、外国人労働者が加入の要件を満たしていなかったりすることもあるでしょう。
もし社会保険加入ができない状態であれば、健康保険証がなくても更新手続きは行えます。
ただし更新が不可となる可能性が高くなることも考えられます。
社会保険に加入しなければならない企業に雇用されている外国人労働者が加入していないとなると、更新不可となるかもしれません。

在留資格の更新手続きをスムーズに行うには、外国人労働者への社会保険加入を進めるべきでしょう。
もし就労ビザの更新ができないとなれば、貴重な労働力を失ってしまいます。  

ポイント3:特定技能外国人の保険料納付状況

労働者として特定技能外国人を雇用するなら、保険料納付状況についてあらかじめ確認してください。
確認するべきポイントは、税金と社会保険料を、遅延なく納めているかどうかです。

もし税金や社会保険料が滞納されているようなら、在留資格変更許可申請の審査を通過できなくなる可能性が高まります。
また通過できるとしても、審査に時間がかかってしまうことも。
特定技能外国人を労働者として雇うなら、税金の納付状況について確認しておくことをおすすめします。  

ポイント4:外国人労働者雇用労務責任者の選任

最後に注意したいのは、「外国人労働者雇用労務責任者」を選任することです。
外国人労働者雇用労務責任者とは、外国人労働者を雇う際について、雇用労務管理を行う人物のこと。
主に次のようなことを行います。

【外国人労働者雇用労務責任者の業務】

  • 外国人労働者の雇用と労働条件に関する管理
  • 行政機関との連絡
  • 外国人労働者の労務管理

外国人労働者を雇用するための適切な環境の構築を担う役割と言えるでしょう。

厚生労働省では「外国人労働者雇用労務責任者講習」を開催しています。
外国人労働者雇用労務責任者として選任された人物が対象であり、受講料は無料です。
選任される人物には、人事課長や労務課長などの管理職が推奨されています。

これから外国人労働者を雇用するなら、まずは外国人労働者雇用労務責任者を選任して講習を受講してください。
そして社会保険加入も含めて、外国人労働者が快適に働ける環境を作ることが大切です。

外国人労働者でも要件を満たすなら社会保険加入を

いかがでしたでしょうか?
この記事を読んでいただくことで、外国人労働者の社会保険加入についてご理解いただけたと思います。

外国人であっても、要件を満たすようなら日本人労働者と同じように社会保険加入が必要です。
社会保険に加入していないと、就労ビザを更新できなくなる可能性が高まるなど弊害も生じます。
また雇用の際には、脱退一時金、社会保障協定などの制度に関する知識も身につけましょう。

HRプラス社会保険労務士法人では、外国人労働者を雇用する際の労務相談を承っております。
上場審査をクリアするためのアドバイスもいたしておりますので、労務DDのご相談ならHRプラス社会保険労務士法人までどうぞお気軽にご相談ください。

[1]参照:厚生労働省:(PDF)社会保険適用拡大ガイドブック

[2]参照:日本年金機構:介護保険の被保険者から外れるまたは被保険者になるための手続き

[3]参照:厚生労働省:(PDF)介護保険制度について

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