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公開日:2024.06.27

更新日:2023.09.21

残業で発生した未払い賃金の計算方法とこれが認められないケース

「残業で未払い賃金が発生したけど請求できる?」「事業者に課されるペナルティがあれば教えてほしい」などと考えていませんか。

未払い賃金は、労働者にとっても事業者にとっても大きな問題といえるでしょう。

放置していると、請求できなくなることやペナルティを課されることがあるため注意が必要です。

ここでは、残業で発生した未払い賃金の計算方法、これを証明するため必要になる証拠、事業者に課される恐れがあるペナルティなどを解説しています。

トラブルを解決するため理解を深めたい方は参考にしてください。

未払い残業代とは

法律に従い支払わなければならないにもかかわらず、支払っていない残業代を未払い残業代といいます。

労働基準法第二十四条で、賃金の支払いについて以下のように定められています。

第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

出典:e-gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法

以上の通り、賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて、その「全額」を支払わなければなりません

原則として1分単位で計算する必要があります。たった1分であっても、支払えていない場合は未払い残業代にあたります。

例えば、8時間労働、18時退社の会社で、従業員Aが18時10分に退社した場合、原則として会社は10分の残業代を支払わなければなりません。

切り上げは認められても、切り捨ては認められない点がポイントです。

つまり、残業代を15分単位で計算するなどの理由で、10分の残業代を切り捨てることはできません。

反対に、切り上げて15分の残業代をつけることはできます。切り捨てた残業代は、未払い残業代として請求される恐れ(請求できる可能性)があります。

 

残業代の切り捨てなどが認められる例外がある点にも注意が必要です。

1カ月分の残業代に1円未満の端数が生じた場合、その四捨五入が認められています。

例えば、1カ月分の残業代が2万5,920円30銭であれば2万5920円、2万5920円62銭であれば2万5921円とすることができます。

上記のケースでは端数を切り捨てたとしても、未払い残業代は存在しません。

また、1カ月の残業時間の合計に60分未満の端数が出た場合、これも切り捨て・切り上げることが認められています。

例えば、1カ月の残業時間合計が18時間25分であれば18時間、18時間35分であれば19時間として扱えます(60分未満をすべて切り捨てるなどは不可)。

端数を切り捨てたとしても、未払い残業代は存在しないことになります。

残業とは

改めて整理しておきたいのが残業についてです。残業は、大きく以下の2つに分類されます。

【分類】

  • 法定時間外残業
  • 法定時間内残業

法定時間外残業は、労働基準法で定められた労働時間(=法定労働時間)を超えた労働です。法定労働時間は労働基準法で以下のように定められています。

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

e-gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法

法定労働時間は、原則として1日に8時間、1週間に40時間です。これを超えた労働に対して、会社は割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。

 

もうひとつの残業が法定時間内残業です。

法定時間内残業は、所定労働時間と深く関わります。所定労働時間は、法定労働時間内で会社が定めた労働時間です。

したがって、7時間など、法定労働時間より少ない会社もあります。所定労働時間を超えて法定労働時間内におさまる残業を法定時間内残業といいます。

例えば、所定労働時間が7時間の会社で、7時間30分、働くと7時間を超えた30分が法定時間内残業になります。

残業ですが、法定労働時間内に収まるため法的な割増賃金の支払い義務はありません。

もちろん、時間あたりの賃金を支払う必要はありますが、割増賃金については就業規則などに基づき会社が決定できます。

同じ残業代でも、法定時間外労働とは扱いが異なります

未払い残業代を考えるときに押さえておきたいポイントです。

残業代の計算方法

 

一般的に残業代という場合、法定時間外残業を指すことが多いでしょう。この場合、以下の計算式で残業代を求めます。

残業代=1時間あたりの賃金×時間外労働を行った時間数×割増率

1時間あたりの賃金はどのように求めればよいのでしょうか。月給制の場合は、以下の計算式で算出できます。

【月給制】

  1. 「年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12」で月の平均所定労働時間を求める
  2. 「月給÷月の平均所定労働時間」で1時間あたりの賃金を求める

例えば、年間休日が110日で1日の所定労働時間が8時間、月給が30万円であれば、1時間あたりの賃金は以下のようになります。

【計算例】

  1. (365日-110日)×8時間÷12=170時間※うるう年の場合は366日で計算
  2. 300,000÷170=1,765円

ここに「時間外労働を行った時間数」と「割増率」を乗じて残業代を求めます。(※割増率については以下で詳しく解説しています。)

併せて押さえておきたいのが月給の内訳です。

残業代を計算する基礎になるため、月給に含まれる賃金を正確に把握しておかなければなりません。

月給(割増賃金の基礎となる賃金)から除外できるものは以下の7つだけです。

【除外できるもの】

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

以上の7つ以外は、全て月給に算入します。例示ではなく、限定的に列挙されている点がポイントです。

また、名称が同じであれば自動的に除外できるわけではありません。

例えば、通勤手当であれば通勤距離や通勤に要する実費に応じて算出される手当(一律で支給しているものは対象外)、住宅手当であれば住宅に要する費用に応じて算出される手当(一律に定額で支給しているものは対象外)などの決まりがあります。[1]

残業代を算出するにあたり、詳細を確かめておかなければなりません。

続いて、日給制における1時間あたりの賃金の算出方法を紹介します。計算式は次の通りです。

【日給制】
1時間あたりの賃金=日給÷1日の所定労働時間

例えば、日給が10,000円、1日の所定労働時間が8時間であれば、1時間あたりの賃金は次の通りです。

【計算例】

  1. 10,000÷8=1,250円

ここに「時間外労働を行った時間数」と「割増率」を乗じて残業代を求めます。ここからは割増率について解説します。

法定割増賃金率とは

会社が従業員に時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。

この計算で用いられるのが法定割増賃金率です。上記の計算式では「割増率」にあたります。

具体的な法定割増賃金率は以下の通りです。

労働 割増率
時間外労働 25%以上
1カ月60時間を超える時間外労働 50%以上
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上

2023年4月1日から中小企業も、1カ月60時間を超える時間外労働の割増率が50%になりました(2023年3月31日までは25%以上)。

中小企業の判定は企業単位で行います。

例えば、サービス業であれば「資本金の額または出資の総額が5,000万円以下」「常時使用する労働者数が50人以下」を満たすかどうかで判断されます。[2]

休日労働は法定休日の労働です。

法定休日は、労働基準法第35条に記載されている休日(週1日または4週で4日)を指します。土日が休日の会社であれば、一方が法定休日、もう一方が法定外休日と考えられます。

法定休日の出勤に対しては35%の割増率、法定外休日の出勤に対しては法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える分に25%の割増率が適用されます。

深夜労働は22時~翌5時の労働です。

この間の労働には25%以上の割増率が適用されます。

上記の労働が重複すると、割増率は加算されます。

例えば、時間外労働と深夜労働が重なると50%以上(25%以上+25%以上)、休日労働と深夜労働が重なると60%以上(35%以上+25%以上)の割増率となります(ただし、法定休日に法定労働時間はないため、時間外労働と休日労働の割増率は重複しません)。

したがって、1カ月の時間外労働が60時間を超えている場合、割増率が非常に高くなることがあります。例えば、深夜労働が重複すると割増率は75%以上になります。

前述の通り2023年4月1日から、中小企業も1カ月60時間を超える時間外労働の割増率が50%以上になっています。労働時間の管理には十分な注意が必要といえるでしょう。

残業に対する未払い賃金がある場合のペナルティ

 

残業代は従業員に支払わなければならない賃金です。未払いになっているとペナルティを課される恐れがあります。
事業者が気をつけたいペナルティは次の通りです。

付加金

従業員などは、裁判で未払い賃金に加えて付加金の支払いを求めることができます

付加金は、事業者が支払わなければならない未払金に加えて支払いを命じられるペナルティです。裁判所は未払金と同一額の支払いを命じることができます。

つまり、合計で未払金の倍にあたる金額の支払いを命じることができるのです(必ずしも同額になるわけではありません)。

事業者にとっては非常に重いペナルティといえるでしょう。

ただし、付加金が発生するのは裁判所から命じられたときだけです。

未払金があるからといって、あるいは従業員から請求されたからといって、自動的に発生するわけではありません。
付加金の支払いは、裁判所がさまざまな事情を考慮して判断します。

一般的には、使用者が悪質と判断されたときに支払いを命じられるケースが多いと考えられています。

遅延損害金

残業代も企業が従業員に支払う賃金です。

未払いが発生すると、債務不履行となるため遅延損害金が生じます

遅延損害金は、期日までに債務を履行しなかったときに損害賠償として支払う金銭です。

遅延損害金の利率は年3%です。

本来、賃金を支払わなければならない日の翌日から発生します。

例えば、未払い賃金が10万円、給料日が7月31日、請求日が8月31日であれば、遅延損害金は以下のようになります。

10万円×3%×31日÷365日

上記ケースの遅延損害金は255円(ここでは小数点以下を切り上げ)です。

ただし、従業員が退職すると遅延損害金の利率は変更され、退職日の翌日から原則として年14.6%になります。

未払い残業代の請求は退職後に行われることが少なくありません。その額や期間によっては、高額の支払いになることも予想されます。

事業者は遅延損害金についても注意が必要です。

刑事罰

残業代の未払いにより刑事罰を科される恐れもあります。労働基準法第37条に違反することになるからです。

労働基準法第119条で、第37条に違反した者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処すると定められています。

労働基準法第37条は次の通りです。

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

e-gov法令検索「昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法

刑事罰を科されるケースは稀ですが前例がないわけではありません。事業者は従業員の労働時間ならびに残業代を適切に管理するとともに未払い賃金が発覚した場合は誠実に対応しなければなりません。

未払い残業代の時効

 

未払い残業代があったとしても、従業員はそのすべてを請求できるわけではありません。

労働基準法第115条に賃金請求権の消滅時効期間が定められているからです。

2020年4月1日以降に支払期日がある賃金請求権の消滅時効は支払期日から5年です。

ただし、当分の間は3年となっています(2023年9月時点。2020年3月31日以前に支払期日がある賃金請求権の消滅時効は支払期日から2年)。

現状は3年となっていますが、消滅時効期間を5年に延長する可能性もあります。事業者はもちろん、労働者も注意したいポイントです。

ちなみに、付加金を請求できる期間も5年に延長されました。ただし、こちらも当分の間は3年となっています。

未払い残業代が発生しやすい業種

 

未払い残業代はすべての業種で発生する可能性があります。しかし、発生しやすさは業種により異なると考えられています。

ここでは、一般的に未払い残業代が発生しやすいと考えられている業種を紹介します。

運送業

トラック運送業は、長時間労働の指摘がある業種です。

公益社団法人全日本トラック協会が発表している「日本のトラック輸送産業 現状と課題2022」によると、2021年における大型トラックドライバーの年間労働時間は2,544時間、中小型トラックドライバーの年間労働時間は2,484時間です。

全産業平均は2,112時間であるため、大型トラックドライバーは全産業平均よりも年間で432時間(月36時間)中小型トラックドライバーは全産業平均よりも年間で372時間(月31時間)も長く働いていることになります。[3]

長時間労働が常態化している主な原因は、積み込み待ち・積み降ろし待ちの待機時間が発生することや人手不足が深刻化していることなどと考えられています。

長距離運送が多く、さまざまな働き方の従業員が在籍しているため、正確な労働時間を把握しにくい点も運送業の特徴です。

悪意はなくても、長時間労働が発生して、労働時間を正確に把握できないことがあります。

したがって、未払い残業代が発生しやすいといえます。

不動産業

不動産業も、未払い残業代が発生しやすい業種のひとつです。

理由のひとつとして、歩合制を採用している企業が多いことがあげられます。

このような事業者の中には、残業を適正に管理していないところが多いといわれています。

したがって、未払い残業代が発生しやすくなるのです。

不動産業の残業時間はどれくらいなのでしょうか。

厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報(一般労働者)」によると、不動産・物品賃貸業の所定外労働時間は1カ月あたり13.9時間、総実労働時間は1カ月あたり163.0時間です。[4]

調査産業計の所定外労働時間は1カ月あたり13.8時間、総実労働時間は162.3時間となっています。

他の産業と比べて労働時間が著しく長いとはいえないでしょう。

ただし、営業パーソンは注意が必要です。顧客の都合にあわせて対応しなければならないため残業が発生しやすい傾向があります。

例えば、顧客が仕事を終えてから商談をするなどが考えられます。必ずしも営業時間通りに働けるわけではありません。

歩合制を採用しているなどの場合は、残業を適正に管理することが重要です。

建設業

建設業も長時間労働が指摘されている業種です。

「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報(一般労働者)」によると、1カ月あたりの所定外労働時間は14.6時間(調査産業計は13.8時間)、総実労働時間は168.4時間(調査産業計は162.3時間)となっています。[5]

残業が発生しやすい主な原因は、人手不足が慢性化していることといえるでしょう。

もちろん、納期を優先して働かなければならない点も影響しています。

建設業界は、未払い残業代も発生しやすいと考えられています。現場監督などを、管理監督者として扱う事業者が多いからです。

管理監督者には、労働基準法の労働時間などに関する規定が適用されません。

したがって、管理監督者として扱えば、残業代を支払わなくてよいと理解している事業者があります。

ただし「管理職=管理監督者」ではありません。管理監督者は経営者と一体的な立場にあるものをいいます。

実際は管理監督者として扱えない現場監督を管理監督者として扱っている事業者が多いのです。

このようなケースでは、未払い残業代が発生している恐れがあります。

関連記事>>管理職と長時間労働|労働時間の上限と勤怠管理のポイント

飲食業

飲食業も時間外労働が多い業種と考えられています。

「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報(一般労働者)」によると、1カ月あたりの所定外労働時間は13.6時間(調査産業計は13.8時間)、総実労働時間は168.4時間(調査産業計は162.3時間)です。 [6]

ちなみに、新型コロナウイルス感染症流行前(令和元年分結果確報)の所定外労働時間は16.5時間(調査産業計は14.3時間)、総実労働時間は180.0時間(調査産業計は164.8時間)でした。[7]

時間外労働が多い主な理由として業務量が多いこと、人手不足が慢性化していることなどがあげられます。特に、店長をはじめとする正社員には大きな負担がかかりがちです。

適正に残業代が支払われていないケースは少なくありません。

また、実態が伴わないにもかかわらず店長を管理監督者として扱い、残業代を払っていないケースもあるようです。

情報通信業

情報通信業も未払い残業代に注意が必要です。

「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報(一般労働者)」によると、1カ月あたりの所定外労働時間は16.5時間(調査産業計は13.8時間)、総実労働時間は161.0時間(調査産業計は162.3時間)となっています。[8]

所定外労働が多いことがうかがえます。人材不足が慢性化しており、スキルを備えた人材に業務が集中する傾向があります。

また、急な対応を求められるケースが多いことや納期を優先して働かなければならないことも影響していると考えられます。

他の業種に比べて、労働時間を正確に把握しやすい点も情報通信業の特徴です。

事業者との話し合いで、未払い残業代に関する問題をスムーズに解決できることもあります。

未払い残業代が認められないケース

 

請求をすればすべての未払い残業代が認められるわけではありません。

ここでは認められないケースを紹介します。

残業時間が誤っている

残業時間が誤っていると、未払い残業代は認められません。正確な未払い残業代を請求できないからです。

会社に、誤った残業代を支払う義務はありません。

労働者が自ら請求するケースで多いトラブルと考えられています。

単純に労働時間の計算を誤ることや労働契約を誤解していることなどがあります。

当然ですが、記憶だけを頼りに計算すると、残業時間を誤ってしまいます。残業時間は証拠をもとに正確に算出することが重要です。

残業を禁止している

会社が残業を禁止している場合は、未払い残業代を認められない可能性があります

残業を禁止している会社で上司から帰宅するように注意されたにもかかわらず自らの意思で残って働いたケースや、残業許可制を採用している会社で許可を取らず自らの意思で残って働いたケースなどは、未払い残業代を認めてもらえないことが多いでしょう。

上記の例では、残業が発生しないように会社側が配慮していることなども求められます。

一方で、残業禁止をうたいながら残業を黙認しているケースや残業が業務命令と捉えられるケース(業務量が多すぎるなど)などは、未払い残業代を認められる可能性があります。

管理監督者に該当する

管理監督者に該当する場合も、未払い残業代は認められません。労働基準法の労働時間に関する規定などが適用されないからです。

管理監督者は経営者と一体的な立場にあるものをいいます。具体的には、以下の基準で総合的に判断します。[9]

【判断基準】

  • 労働時間などの規制の枠を超えて活動せざるをえない重要な職務内容を有する
  • 労働時間などの既成の枠を超えて活動せざるをえない重要な責任と権限を有する
  • 実際の勤務態様が労働時間の規制に馴染まない
  • 賃金などについて、地位に応じた待遇がなされている

会社で管理監督者として扱われていても、管理監督者ではないと判断された場合、未払い残業代を認められる可能性があります。

みなし残業(固定残業)制度

事業場外みなし労働時間制を採用している場合、所定労働時間を超えて働いたとしても残業代は原則として認められません

事業場外みなし労働時間制は、事業場外で労働するため労働時間の算定が困難なときに、所定労働時間の労働をしたとみなす制度です。

ただし、通常、所定労働時間を超えた労働が必要になる場合は「業務の遂行に必要な時間」または「労使協定で定めた時間」労働したものとみなされます。

このケースでは法定労働時間を超えている部分の残業代を支払わなければなりません。

したがって、未払い残業代を認められる可能性があります。

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度を導入している場合も、残業代を認められないことがあります。

フレックスタイム制度は、一定期間(=精算期間。3カ月以内)を対象に、あらかじめ定められた総労働時間内で、毎日の始業時間・終業時間を従業員自身が決定できる制度です。

したがって、1日8時間、週40時間を超えても残業とはならないことがあります

ただし、精算期間内の法定労働時間の総枠を超えると、法定時間外労働となり残業代が発生します。

この場合は、未払い残業代を請求できる可能性があります。

裁量労働制度

みなし労働時間制のひとつです。裁量労働は専門業務型裁量労働と企画業務型裁量労働に分かれます。

前者はデザイナー・研究業務など(19業種)、業務遂行手段や時間配分の指示が困難な業務、後者は本社などの中枢部門で企画・立案・調査・分析などを行うため業務遂行手段や時間配分の指示が困難な業務を対象とします。

いずれも、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めた労働時間を働いたものとしてみなします。

したがって、残業代は基本的に発生しません

ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合は、超えた分が支払われます。

このケースは、未払い分を請求できる可能性があります。

時効が成立している

時効が成立している場合も、未払い残業代は認められません。請求権が消滅しているからです。

前述の通り、2023年9月時点における未払い残業代の時効は3年です。

この期間はいつから数え始めるのでしょうか。消滅時効期間の起算点は給料日です。

ただし、初日は不算入となるため、実際に数え始めるのは給料日の翌日からです。

したがって、2023年8月31日に支払われる予定だった残業代の消滅時効期間は2023年9月1日から2026年8月31日となります。

この間に残業代を請求しなければなりません。

未払い残業代の確認方法

 

未払い残業代は、証拠をもとに確認していくことになります。

必要となる主な証拠は以下の通りです。

契約書

労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条に基づき、使用者は労働者を採用するときに労働条件を明示しなければなりません。

原則として、書面で必ず明示しなければならない項目は以下の7つです。[10]

【労働条件】

  1. 契約期間
  2. 契約更新する場合の基準(期間の定めがある契約)
  3. 就業場所・従事する業務
  4. 始業時刻・終業時刻・休息時間・休日
  5. 賃金の支払方法・支払時期など
  6. 退職に関して
  7. 昇給に関して

以上の項目は、通常、雇用契約書や労働契約書などに記載されます。

したがって、これらの契約書は未払い残業代を確認する証拠になりえます。

就業規則

就業規則にも、始業時刻・終業時刻・休息時間・休日賃金の決定・賃金の計算方法・賃金の支払い方法などが記載されています。

就業規則も、未払い残業代を確認する証拠になりえます。

常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成して所轄労働基準監督署へ届け出なければなりません。

多くの事業者が就業規則を作成していると考えられます。

勤怠情報

残業の事実は労働者側が証明しなければなりません。

実際に働いた時間を証明するため必要になるのが勤怠情報です。

具体的には、タイムカード・シフト表・業務日報・入退室記録などが考えられます。

請求を行う場合、これらを事前に準備しておくことが重要です。

未払い残業代はルールに従い精算

 

ここでは残業で発生する未払い賃金について解説しました。

使用者は、賃金を全額払わなければならない義務を負っています。

1分であっても、支払えていない場合は未払い残業代と考えられます。

未払いが発生すると、企業は付加金・遅延損害金・刑事罰を科される恐れがあります。

従業員などから請求されたときは誠実に対応することが重要です。

労働者側は証拠をもとに未払い残業を立証しなければなりません。

契約書・就業規則・勤怠情報などが証拠になりえます。

労務に関するご相談ならHRプラス社会保険労務士法人へお問い合わせください。

 

[1]出典:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?
[2]厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
[3]出典: 公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2022
[4] [5][6][8]出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報
[7] 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和元年分結果確報
[9]出典:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために
[10]厚生労働省「労働基準法の基礎知識

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