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公開日:2024.12.03

更新日:2024.12.03

IPOとは?他制度との違いや上場するメリット・デメリット

企業の事業規模を拡大していきたいと考えた際、検討することになる選択肢の一つが「IPO」です。
ただ「IPOについて何となくは理解しているものの、具体的なところがよくわからない」という方もいるのではないでしょうか。

そこで、本記事ではIPOについて知りたい方のため、押さえておきたい基本や目的などを解説します。この記事を読むことで、IPOの特徴やメリット、デメリットを理解できるようになります。

IPOとは?

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規公募」や「新規株式公開」と表現されます。
つまり、これまで上場していなかった企業が証券取引所に新規上場することを指します。

ただし、希望すればどの企業でも株式を上場することができるわけではありません。
上場審査と呼ばれるものを通過する必要があります。

IPOの目的

IPOの大きな目的は、企業にとって新たな資金調達手段を得ることにあります。
非上場企業の場合、株主は創業者やその一族など、ごく一部に限られているのが一般的です。このような状況では、事業展開を拡大したいと考えた際、資金不足に陥ってしまうことがあります。

IPOによって新規に株式を公開すれば、企業は資金を資本市場から調達することが可能です。これにより、さらに大きな事業展開につなげていくことができます。

IPOとそのほかの制度との違い

IPOと混同されやすいのが「株式上場(上場)」です。
上場とは、株式市場で自社の株式を自由に取引できるようにすることを指します。言い換えると、証券取引所によって株式の取引が認められることが上場です。

一方、IPOは未上場企業が初めて株式市場で株式を売り出すことです。
これには、株式を売り出すためのプロセスが含まれており、新規の株式発行を行う場合に「IPO」と呼ばれます。

単純に「上場」とだけ言う場合は、必ずしも新規の株式発行を伴う必要はないのが大きな違いです。IPOを果たした企業が「上場企業」と呼ばれる形になります。

「PO(Public Offering)」と呼ばれる制度もあります。こちらは、上場している企業が追加で株式を公募することを指す言葉です。
IPOの「I」は「Initial」のことであり「最初の・初めの・初期の」といった意味を持つことから、2回目以降は「I」が外れて「PO」と呼ばれると覚えると理解しやすいと言えるでしょう。

IPOの条件

企業が新規に上場し、投資家が株を購入したとしても、すぐに倒産してしまっては問題です。そのため、市場ごとにIPOを果たすための条件を定めており、IPOを目指す企業はこの条件を満たさなければなりません。

定められている条件は株式市場の種類によって異なります。
例えば、代表的な市場である東京証券取引所について見ていきましょう。東京証券取引所は「東証」とも呼ばれ、東証の中には主要な市場として「プライム」「スタンダード」「グロース」といった3つの区分があります。

一例として、このうち、グロース市場の上場審査基準は以下のように定められています。

【上場審査基準】

  • 株主数(上場時見込み):150人以上
  • 流通株式数:1,000単位以上
  • 流通株式時価総額:5億円以上
  • 流通株式比率:25%以上
  • 公募の実施:500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うこと
  • 事業継続年数:1年以前から株式会社として継続的に事業活動をしていること

参考:日本取引所グループ(JPX):上場審査基準

他にも細かい条件が定められているため、それらをすべて満たさなければなりません。
なお、他市場についてみてみると「スタンダード」市場は株主数が400人以上、流通株式数は2000単位以上必要です。「プライム」市場については株主数が800人以上、流通株式数は2万単位以上必要であることから、IPOに関しては最も規模の小さいグロース市場に上場することが一般的であり、多くの企業がグロースを選択している形です。(※)

プライムは機関投資家による活発な売買が行われるような大企業、スタンダードは上場企業として十分な流動性を維持している企業に該当します。

グロースは今後高い成長が期待できる企業が該当する市場ですが、プライムやスタンダードに該当する企業と比べると企業としての規模が小さいため、相対的にリスクが高い企業が該当する市場です。

IPOを検討しているのであれば、まずはどの株式市場を選ぶのか、そこではどういった条件が定められているのか確認しておきましょう。

(※)参考:日本取引所グループ(JPX):新規上場会社情報

IPOのメリット

IPOを検討しているのであれば、どのようなメリットがあるのか確認しておきましょう。
ここでは、代表的なメリットを6つ紹介します。

メリット①資金調達力が向上する

IPOの大きな目的は、資金調達力の向上です。
新たな資金調達元として証券市場からの資金調達をすることができるようになります。これにより、事業拡大のスピードを早めることができる点がメリットと言えるでしょう。
挑戦したい事業があるが、それに必要な資金が不足している場合にも有力な選択肢となります。

メリット②社会的信用度・知名度が向上する

日本に存在している会社のうち、上場を果たしている企業は圧倒的に少ないことから、上場することにより企業の知名度が向上します。また、IPOを行うためには株式市場で定めている非常に厳しい審査をクリアしなければなりません。
このことから、IPOを果たした企業は社会的信用度も大きく向上します。
同時に自社の商品やサービスの信用度も高まることになるので、さらなる利益拡大を目指すことが可能です。

このような状況になれば、取引先からも信用されるようになり、新規取引を獲得しやすくなります。
また、社会的信用度が上がれば、それだけ金融機関からの融資を受けやすくなるのもメリットといえるでしょう。企業として社会的信用度・知名度が向上すれば、将来的にM&Aなどの戦略を実行しやすくなります。

さらに、信用度や知名度が向上すれば、自社に就職を希望する人材を見つけやすくなることも、大きなメリットと言えるでしょう。現在、さまざまな企業が人手不足に頭を抱えています。
非上場の競合との差別化を図りたい場合、IPOは有効な手段となるでしょう。

メリット③従業員のモチベーションが向上する

IPOによって社会的信用度や知名度が向上すれば、さらなる企業の成長につながることが期待されます。こういった状況になると、従業員のモチベーションが向上しやすくなるのも大きなメリットです。
「今後、給料が上がるかもしれない」という期待に加え、上場企業で働いていることへの喜びも感じやすくなります。
これまで以上に仕事に対して前向きになる従業員が増えれば、企業のさらなる成長につながるでしょう。

メリット④内部管理体制が強化される

IPOの審査を通過するためには、内部管理体制が整えられている必要があります。そのため、IPOに向けて自然と内部管理体制が強化される点もメリットと言えます。

たとえば、これまで制度や規則といったものがきちんと整備されていなかった場合は、それを整備していかなければなりません。管理体制が強化されることで、企業の無駄が見つかりやすくなり、従業員にとって働きやすい環境を整える効果が期待できます。健全な経営体制を築くためにも欠かせないことです。

メリット⑤株式の流動性が向上する

IPOによって、非上場の時とは異なり、公開市場で株式が取引されることになります。
そのため、上場することで株式の流動性が向上します。これにより、不特定多数の株主から融資を受けられるようになる点もメリットと言えるでしょう。

メリット⑥企業の評価基準が明確になる

IPOによって企業の評価基準が明確になるメリットもあります。
株価は、会社の評価基準を客観的に示す指標として活用できます。現在、自社の株価がどのようになっているのか、どう動くと予想されるのか追求することにより、事業戦略や効果的な運営につなげられます。

IPOのデメリット

IPOはメリットが大きい選択肢といえますが、デメリットについても確認しておかなければなりません。ここでは、主なデメリットを4つ紹介します。
このデメリットとメリットを比較し、自社にとってどちらが大きいかを検討したうえでIPOについて考えましょう。

デメリット①社会的責任が増大する

IPOが実現できれば、株式市場によって定められている厳しい条件を満たしていることの証明になります。そのため、社会的な信頼を得ることができるのですが、一方で企業としての社会的責任が大きくなるのがデメリットです。

万が一、何らかの不祥事があった場合は、非上場企業と比較して大きく取り扱われることになってしまいます。株主から責任を追及する声も大きく、これらに対して適切に応じなければなりません。

株主に対する説明責任もあります。業績が振るわない場合は、その原因や今後の対策について株主に対して説明しなければならず、プレッシャーに感じてしまうことがあるのもデメリットです。
不特定多数の株主を持つこととなり、投資家である株主に対しては、投資判断に必要な情報をタイムリーに開示しなければなりません。

デメリット②上場のためにコストがかかる

新たに資金を確保する手段としてIPOを検討する際、資金的な余裕が生まれることだけを考える人もいます。
ですが、上場のためにはコストがかかることをよく理解しておかなければなりません。

詳しくは後述しますが、IPOには準備期間が必要であり、短くても3年以上の準備期間が必要です。IPOを目指すための体制を整えるのに費用がかかるほか、人材を確保・調整しなければならず、人件費も必要です。

また、IPOの審査を通過するためには監査法人や主幹事証券会社と連携しながら準備を進めていくことになるのですが、監査法人、主幹事証券会社への報酬も必要になります。さらに、準備を進める中でIPOコンサルティング会社や弁護士など、さまざまな専門家の協力が必要になるため、多額のコストが避けられません。

上場準備に必要なコストは企業の規模によって異なりますが、最低でも数千万円が必要とされています。

さらに、上場できたとしても、それを維持するためのコストが必要です。例えば、証券取引所に対して上場維持費を支払う必要があります。また、株主にタイムリーな情報を提供するための準備や発表に関連するコストも発生します。

加えて、監査に対する報酬など、上場前には発生しなかったコストが継続して発生するため、十分に確認する必要があります。

デメリット③株主が経営に関与しやすくなる

未上場である場合は経営方針などを経営者が決められますが、上場すると株主ができることになるので、株主に配慮した経営方針の決定が求められます。
これにより、経営者であったとしても自身が理想としているものとは異なる形で経営方針をまとめなければならないこともあるでしょう。これは、経営の自由度を低下させるデメリットにつながります。

特に問題になってくるのが「物言う株主」と呼ばれる存在です。アクティビストとも呼ばれ、経営戦略や株主還元の強化といったものの提案を行い、利益を得ようとする株主のことをいいます。経営者側と対立してしまうことも多く、場合によっては物言う株主の影響で経営が振り回されてしまうことも珍しくありません。

ただ、経営者とは異なる視点で企業の成長を促す存在とも言えるので、パートナーとしてうまくコミュニケーションを取っていくことが重要です。

デメリット④株価の変動による影響が出る

上場後は経済状況の変化などの影響を受けて株価が大きく変動することがあります。業績が伸び悩む場合、公募価格を下回る下落リスクが発生する点もデメリットです。

IPOの手順

IPOを検討した場合、どのような形で進んでいくことになるのでしょうか。ここでは、上場準備期間と上場審査・承認の期間でそれぞれ行うべきことを解説します。

上場準備期間

IIPOを目指している場合は、条件を満たし、審査に通過するための準備をしなければなりません。この期間中に行う準備としては、以下のようなものがあります。

【行うべき準備】

  1. 本当に上場すべきかの検討
  2. IPO担当部署の設置など、プロジェクトチームの発足
  3. IPOプロセスを支援する主幹事証券会社・監査法人の選定
  4. 社内管理体制の整備

まずは自社にとってIPOのメリット・デメリットとしてどういったことが考えられるのかよく検討し、本当に上場すべきか検討していかなければなりません。

IPOを決めた場合、準備はIPOプロセスを支援する主幹事証券会社や監査法人と連携しながら行っていくことになります。

一般的には短くても3年以上の準備期間が必要です。これは、監査法人と監査契約を締結して金融商品取引法に準ずる監査を受けたうえで監査報告書の提出を求められることや、上場のための態勢構築に時間がかかることが関係しています。

監査は、開示されている情報が正しいかを調査する目的で行うものです。一般的に上場企業の監査は第三者視点で行われ、問題点や改善点を指摘する役割が強いと言えます。

一方で、IPOの監査に関してはまだ上場しておらず未成熟な状態の企業を相手とするため、IPO監査には企業をより良い方向に導いていくために指導する役割も大きいです。

これからIPOを目指す企業としては、自社としっかりコミュニケーションをとり、適切な指導やアドバイスを行ってくれるコンサルティング的な役割も果たす監査法人と契約しましょう。

しかし、近年はIPOを目指す企業が増えていることもあり、監査契約を締結できる監査法人がすぐに見つからないケースが増えてきました。監査法人を見つけるのに想像以上に時間がかかることも考えられるので、早い段階で準備を進めていきましょう。

こういったこともあり、一般的に準備開始から上場までには3~5年はかかると考えておく必要があります。

上場審査・承認

準備段階が完了したら、いよいよ上場審査・承認のための手続きへと進んでいきます。

【手順】

  1. 上場申請に必要な書類を揃え、提出する
  2. ヒアリング・実地調査
  3. 代表者説明会
  4. 上場契約を締結
  5. 上場承認の発表

書類を提出した後、追加の質問事項がある場合は、回答書を提出する必要があります。 提出された書類に基づきヒアリングが行われるほか、実地調査も必要です。

ヒアリングについては、監査を担当した公認会計士や会社の監査役、会社の代表者などを対象に実施されます。審査は提出した書類と各種ヒアリング、実地調査をもとに行われる形です。

仮に審査の結果、通過できなかった場合、予定していた資金調達が実現できなくなります。さらに、既存の株主からの信頼が低下してしまったり、自身が働いている企業が上場できるものと思っていた従業員のモチベーション低下につながったりする可能性も高いです。

事前準備をしっかり行い、審査を通過できるように整えておきましょう。なお、上場申請から上場承認までは、一般的に2~3ヶ月程度の期間を要します。

関連記事>>上場(IPO)準備のスケジュール!上場までにやることとは?

早い段階から準備を進めておくことが重要

いかがだったでしょうか。IPOの概要やメリット、デメリットなどについて解説しました。
IPOを検討するにあたり、どういったことに注意すれば良いのかについてご理解いただけたかと思います。

実際にIPOを実現するためには年単位での時間がかかることになるので、準備は早い段階から行っておきましょう。

IPOに関する不明点やお困りのことがあれば、HRプラス社会保険労務士法人までご相談ください。これまで多くの上場企業において顧問をしてきた実績を活かし、企業のIPOをサポートします。

労務DDのご相談ならHRプラス社会保険労務士法人

コラム監修者

特定社会保険労務士

佐藤 広一(さとう ひろかず)

<資格>

全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号

東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号

<実績>

10年にわたり、200件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員

<著書・メディア監修>

M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上

TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演

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