• 社会保険
  • 人事労務

公開日:2024.06.22

更新日:2023.09.21

社会保険加入は労働何時間から?押さえておきたい加入の要件

「社会保険は、労働時間、何時間から加入しなければならないの?」などの疑問を抱いていませんか。

詳細がわからず勤務時間をコントロールできないと感じている方もいるでしょう。

結論から先に示すと、適用対象になる労働時間はケースで異なるため、働き方などを踏まえて判断することが大切です。

ここでは、適用対象に

なる要件と加入するメリット・デメリットなどを解説しています。

労働時間などが気になる方は参考にしてください。

社会保険の加入は労働何時間から必要か

広義と狭義で社会保険の範囲は異なります。

ここでは狭義、つまり健康保険と厚生年金保険について解説します。

適用事業所に常用的に使用されている方は社会保険への加入が義務づけられています。

ここでいう適用事業所は、法人の事業所、常時5人以上の従業員を使用する個人の事業所などです。

パートやアルバイトの方であっても、週の所定労働時間と月の所定労働日数が同一事業所で働く正社員の4分の3以上であれば社会保険へ加入しなければなりません(4分の3基準)。

例えば、正社員の週所定労働時間が40時間であれば30時間以上働いているパートやアルバイトの方は社会保険の適用対象者になります。

また、4分の3基準を満たさなくても、従業員数101人以上の企業に勤務している方は、要件を満たすことで適用対象になります。

具体的な要件は次の通りです。

週の労働時間が20時間以上

1週間あたりの労働時間について要件が定められています。

具体的には、週あたりの所定労働時間が20時間以上の場合は適用対象になる可能性があります。

例えば、1日5時間を4日間、1日4時間を5日間などのケースが考えられます。

所定労働時間は、就業規則や雇用契約などで定められた労働時間(休憩時間を除く)です。したがって、突発的に生じた残業などの時間は含みません。実際の労働時間が考慮される点にも注意が必要です。

所定労働時間が要件に満たなくても、実際の労働時間が2カ月連続で要件を満たしていて、今後もこれが続くと考えられる場合は、3カ月目から加入の対象になります。

雇用期間が原則2か月以上

勤務期間についても要件が定められています。

具体的には、継続して2カ月を超えて使用される見込みがある場合は適用対象になる可能性があります。

2022年10月までは、継続して1年以上使用される見込みがある場合でした。

短時間労働者における勤務期間の要件はフルタイムの労働者と同じになっています。適用対象の拡張が図られたといえるでしょう。

また、雇用期間が2カ月に満たなくても、適用対象になることがあります。

具体的には、就業規則、雇用契約書などで契約が更新されること、契約が更新されるケースがあることが明記されている場合、同じ条件で雇用されていた労働者が更新などにより当初の契約期間を超えて勤務した実績がある場合です。

この場合には雇用期間が2カ月未満であっても社会保険の適用対象になります。

学生ではない

学生ではないことも要件のひとつとしてあげられています。

適用対象から外れる学生は、大学・専修学校など、修業年限1年以上の課程に在学する学生です。

ただし、休学している学生や大学の夜間学部などに在籍する夜間学生は適用対象になります。学校卒業前に卒業見込証明書を取得して就職している方も同様です(卒業後も同じ事業所で勤務する予定)。

以上からわかる通り、学生であることのみで適用の可否を判断することはできません。

個別所状況を踏まえることが大切です。

毎月の賃金が8万8,000円以上

月額賃金についても要件が定められています。

月額賃金が8万8,000円以上の方は適用対象になる可能性があります。

ここでいう月額賃金は基本給と諸手当です。賞与や時間外手当、休日出勤手当、通勤手当、皆勤手当などは含みません。

月額賃金を年収に換算すると約106万円です。

ただし、この金額は参考で、実際の適用可否については月額賃金のみで判定されます。

資格取得後に被保険者資格を喪失することは、雇用契約などが見直されて月額賃金が8万8,000円を下回ることが明らかになった場合を除き、基本的にありません。

ただし、雇用契約などに変更がなくても、月額賃金が8万8,000円を常態的に下回る状況が続くときは実態にあわせて被保険者資格を喪失します。

2024年に適用範囲が変更予定

2022年10月から従業員101人以上の事業所は、いわゆる4分の3基準を満たさない労働者であっても、所定の要件を満たす場合は社会保険の加入を義務づけられています。

この点については、ここまで解説してきた通りです。

2024年10月から社会保険の適用範囲がさらに拡大、従業員101人以上の事業所から従業員51人以上の事業所へ変更されます。

現在は社会保険へ加入していない方も、適用対象になる可能性があります。使用者だけでなく労働者も適用範囲を確認しておかなければなりません。

ちなみに、事業所の従業員数は、厚生年金保険の被保険者数でカウントします。

つまり、フルタイムの従業員数と4分の3基準を満たす従業員数(パート・アルバイトを含む)の合計が当該事業所の従業員数です。

義務である社会保険に加入しなかった場合

法人の事業所、常時5人以上の従業員を雇用する個人の事業所(一部の事業は除く)などにとって社会保険の加入は義務です。

未加入が発覚すると、年金事務所などから加入を求められます。

これに従い加入した場合、最大で過去2年分の保険料を請求されます。

本来は労使で折半する保険料を事業者が原則として全額負担しなければならない点もポイントです(追って請求は可能)。

また、未加入期間の保険料に対して10%の追徴金も課されます。

条件によっては、まとまった金額になるため注意が必要です。

悪質と判断された場合は、刑事罰が科される恐れもあります。6カ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処されます。

これらのペナルティを避けるためにも、加入を義務付けられている事業所は適切に対処しなければなりません。

社会保険に加入するメリット

労働者は、社会保険に加入することでさまざまなメリットを得られます。主なメリットは次の通りです。

メリット①受け取れる年金額が増える

厚生年金保険に加入することで、年金が基礎年金と厚生年金の二階建てになります。

受給要件を満たすことで「老齢基礎年金+老齢厚生年金」「障害基礎年金+障害厚生年金」「遺族基礎年金+遺族厚生年金」などを受け取れるようになります。

支給される年金額は、厚生年金の加入期間と保険料で異なります。

政府広報オンラインによると、1年間の加入(保険料8,100円/月・収入88,000円/月)で月額450円、20年間の加入で月額9,000円、40年間の加入で月額18,000円、年金額は増加します。[1]

メリット②保障が手厚い

保障を充実させられる点も加入のメリットです。

例えば、厚生年金保険に加入することで、軽度な障害でも障害厚生年金などを受給できるようになります。障害基礎年金とは受給要件が異なるからです。

具体的には、障害基礎年金を受けられない障害等級3級も障害厚生年金を受けられます。障害等級3級に満たない場合に、障害手当金(一時金)を受け取れる可能性がある点も見逃せません。

また、健康保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金を受けることができます。

傷病手当金は業務外の病気や怪我で会社を休んで事業主から十分な報酬を受けられないときに支給される手当金、出産手当金は出産のため会社を休んで給与の支払いを受けられないときに支給される手当金です。

社会保険に加入することで、さまざまな保障を受けられるようになります。

メリット③保険料の負担が事業者と折半

健康保険・厚生年金の保険料が労使折半になる点も魅力です。

国民健康保険・国民年金の保険料は被保険者が全額自己負担しなければなりません。具体的な保険料はケースで異なりますが、大きな負担になることが多いでしょう。

健康保険・厚生年金に加入すれば、自己負担を抑えつつ年金額を増やしたり保障を充実させたりできる可能性があります。

この点も、非常に大きなメリットと考えられます。

社会保険に加入するデメリット

 

社会保険の加入には気を付けたいデメリットもあります。新たに加入する場合は以下の点に注意が必要です。

デメリット①手取りの金額が減る

新たに社会保険へ加入すると、手取りの金額は減少します。健康保険と厚生年金の保険料を支払わなければならないからです。

それぞれの保険料は、標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を乗じて求めます。

協会けんぽの場合、健康保険の保険料率は都道府県で異なります。

令和5年度における東京都の保険料率は10.00%、厚生年金保険の保険料率は全国一律で18.3%です。[2] [3]以上をもとに算出した保険料を労使で折半します。したがって、これまで社会保険に加入していなかった方は手取りが減少します。

デメリット②扶養を外れる場合がある

社会保険の加入要件に、月額賃金8万8,000円以上があります。年収に換算すると約106万円です。

年収103万円を超えると住民税に加えて所得税もかかります

また、扶養者(配偶者)が受けている配偶者控除は配偶者特別控除に切り替わります。両者の違いは控除額などです。

扶養から外れるケースがある点もデメリットとしてあげられます。

社会保険加入を避ける方法

 デメリットを回避するため適用対象になることを避けたいと考える方もいるでしょう。社会保険の加入は次の方法などで避けられます。

方法①労働時間を抑える

1週間あたりの労働時間が20時間以上になると適用対象になる可能性があります。

したがって、労働時間を20時間未満に抑えると社会保険の加入を避けられます。

ここでいう労働時間は、原則として就業規則や雇用契約などで定められた時間です。

加入を避けたい場合は、実際の労働時間だけでなく雇用契約書などの内容に注意しなければなりません。

方法②短期で働く

勤務期間が2カ月を超える見込みがある場合も適用対象になる可能性があります。加入を避けたい場合は、この期間を超えないように勤務期間を調整するとよいでしょう。

ただし、契約の更新が見込まれると勤務期間が2カ月未満であっても適用対象になります。

ここでいう「契約の更新が見込まれる」は、雇用契約書に契約更新について記載があるケースなどです。

加入を避けたい場合は、契約を更新しないなどの合意が必要になることもあります。

労働時間20時間以上は社会保険加入の可能性あり

 

ここでは、社会保険加入の要件などについて解説しました。

従業員数101人以上の企業は、4分の3基準に満たない一部の労働者も社会保険の加入が義務化されています。

1週間あたりの所定労働時間が20時間以上、月額の賃金が8万8,000円以上などの要件を満たすと適用対象になる可能性があります。

義務であるにもかかわらず加入しなかった場合、事業所はペナルティを課される恐れがあるため注意が必要です。

労働者は、週所定労働時間を抑えることなどで適用対象になることを避けられます。

事業者、労働者とも、加入要件を理解して適切に対処することが大切です。

労務に関するご相談ならHRプラス社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。

 

関連記事