労務関連情報を調べている人事・労務担当者の方に向けて、内部統制とコンプライアンスの関係性について解説します。
企業の価値や信頼性を高めるために欠かせないのが「コンプライアンス」です。しかし「内部統制」との違いが明確にならない、関係性がわからないと感じている方は少なくありません。
そこで今回の記事では、コンプライアンスと内部統制の関係性と違いについて解説します。参考にしていただければ、コンプライアンスの強化を目指す場合に内部統制を整備する意義をご理解いただけるはずです。
コンプライアンスと内部統制の違い
「コンプライアンス」は「行動・姿」であり、「内部統制」は「仕組み」であるのが最大の違いといえます。
コンプライアンスは理想とされる行動・姿のことを指し、コンプライアンスの強化のためには内部統制が必要です。それぞれの概要について確認することで、コンプライアンスと内部統制の違いと関係性が見えてきます。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは「遵守」「応諾」のことですが、日本においては「法令遵守」を指すことがほとんどです[1]。しかし最近ではさらに使われる範囲が広くなっており、倫理・道徳・常識を守る行動という意味合いも含まれるようになりました[1]。
企業において法令を遵守することは、企業の健全性と取引先からの信頼性を維持するために欠かせません。もし守られなければ、行政処分や罰則を受けることも考えられるでしょう。
しかし企業ごとの方針に従ったり、社内規定に反したりしないことも同様に重要です。
このように、コンプライアンスとは社会や企業のルール、人としての正しいあり方を守ることを意味します。
内部統制とは
内部統制とは、目的を達成するために、統制活動や統制環境を整え、企業を健全に運営する仕組みのことを指します。金融庁では次のように定義されています。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
つまり情報技術やモニタリングを駆使し、不正や法令違反が起きないようにするプロセスが内部統制です。内部統制によって達成すべき目的は、以下の4つです。
目的1:業務の有効性および効率性
ひとつめの目的は「業務の有効性および効率性」です。事業活動を行う目的を達成するため、業務の有効性と効率性を高めることを指します[2]。 有効性と効率性は、以下の基準に基づいて評価されます。
【有効性と効率性の基準】
- 有効性:事業活動を行う上での目標の達成度
- 効率性:企業における資源の利用度
効率性とは人材や資材、資金などの資源を適切に分配し、事業の目的を達成できるように利用することです。効率性を高めることで、事業活動における目標達成度を向上させることが有効性の評価につながります。
つまり有効性を高めるためには、効率性を向上させることが、内部統制におけるひとつめの目的です。
目的2:財務報告の信頼性
内部統制におけるふたつめの目的は、「財務報告の信頼性」です。
財務諸表と、財務諸表に大きく影響するであろう情報の信頼性を確保することを指します[2]。 企業の財務報告は金融機関や投資家にとって、企業を判断するための材料です。財務報告によって企業の経営状態が判断されるため、虚偽の事実が記載されていては多方面への不利益が生じるでしょう。
そのため内部統制においては、財務報告の信頼性が確実に担保されるよう整備することも目的の一つです。
目的3:事業活動に関わる法令等の遵守
「事業活動に関わる法令等の遵守」とは、一般的に言われる「コンプライアンス」のことです。つまり法令を遵守したり、社内規定や人としてのルール・常識を守ったりなどの行動を促すことを指します[2]。
コンプライアンスを強化するには内部統制を整備し、企業に属する人すべてが倫理的に行動しなければなりません。
企業が社会的信用を得て持続的に成長するためにも、コンプライアンス強化は極めて重要な目的といえます。内部統制によるコンプライアンス強化は、企業が存続し、事業活動を成功させるために最も重要な目的であるとも言えるでしょう。
目的4:資産の保全
「資産の保全」は、企業の資産の取得・使用・処分を適切に行うことです[2]。有形資産はもちろん、無形資産の管理も含まれます。 資産は企業にとって、事業を行うためになくてはならないものです。たとえば無計画に使用をしたり、ずさんな管理で失われてしまったりしては事業が継続できなくなることもあるでしょう。
そのため内部統制においては、事業における目的を達成するため、資産の保全も目的の一つに位置付けられます。
コンプライアンスと内部統制の関係性
コンプライアンスと内部統制は企業経営において、相互に補完し合う関係にあります。
コンプライアンスを強化するには内部統制が必要。しかし「事業活動に関わる法令等の遵守」あるように、内部統制にもコンプライアンスの強化が求められます。
それでは両者にどのような関係性があるのか具体的に見ていきましょう。
コンプライアンスのための内部統制
コンプライアンスのためには、内部統制が必要となります。法令遵守との意味を持つコンプライアンス。実現させるには社会や企業での規範や倫理を遵守することを従業員に伝達できるよう、内部統制を整備しなければなりません。
内部統制を実施するには倫理規範や社内規定を策定し、従業員にコンプライアンスの意識を持ってもらうことが必要となります。 企業が策定することにより社内でのコンプライアンス意識は高まるはずです。コンプライアンスを実現させるには、まず内部統制を行うことが重要となります。
コンプライアンスを強化するための内部統制
内部統制はコンプライアンスを強化したい場合にも役立ちます。内部統制の基本的要素にはモニタリングやリスクの評価と対応、情報伝達も含まれるためです。
コンプライアンスを強化するには、社内で働く全員に対して倫理規範や社内規定を周知し、実践してもらわなければなりません。ルールを策定するだけでは、「実際の行動に結び付かない可能性もあります。
そこで重要となるのが内部統制です。コンプライアンスに関するリスクを評価できれば、対策も練られるはず。モニタリングを徹底すればコンプライアンスに反している従業員を把握しやすくなります。情報伝達が容易な仕組みを作り出せば、コンプライアンス違反の報告もされやすくなるでしょう。
モニタリングの徹底により違反の早期発見にもつながります。 コンプライアンス強化のためには、内部統制を整え、法令遵守の行動を促すことが重要です。
内部統制でコンプライアンスを強化する方法
コンプライアンスの強化を図るには内部統制が必要であると解説しました。それでは具体的にどのように強化していくべきかご紹介します。
方法1:ワークフローシステムを活用する
ひとつめの方法は、ワークフローシステムを活用することです。業務に関する手続きを電子化する仕組みがワークフローで、書類を申請した後に、分岐ルートを作りながら承認を得るシステムを構築することにより、情報の改ざんを防止できます。
たとえば二重・三重の承認を得るシステムを整えれば、申請・承認を行った経緯がログとして残されます。紙媒体のワークフローに比べて改ざんや不正の確率が低くなるため、コンプライアンス強化に役立つでしょう。
方法2:ERPを活用する
ERPを活用することもひとつの方法です。ERPとは紀伊業の経営情報を一元化して管理するシステムのことであり、わかりやすく言えば基幹業務システムを指します。
ERPの導入により、IT業務処理や情報品質の信頼性を高めることが可能となります。 内部統制を構成する基本的要素には、情報技術の活用が含まれていると最初に解説しました。ERPは内部統制に関わる情報を記録・蓄積させられます。
さらに業務効率の向上にも役立つでしょう[3]。 コンプライアンス強化をはかるには 内部統制において、信憑性の高さが必要となります。ERPの導入によって情報を適切に記録・蓄積される環境を整えられれば、従業員の意識が変化し、コンプライアンスの強化につながるはずです。
内部統制でコンプライアンスを強化するメリット
内部統制でコンプライアンスを強化することには、次のようなメリットがあります。
メリット①企業イメージが向上する
まずは企業のイメージが向上することです。 コンプライアンスを強化することは、企業が健全に運営されることと同義。社内での法令遵守やモラルの向上が進めば、社外からの評判も高まるでしょう。 コンプライアンスに準じた運営を行っていれば、企業イメージと信頼度の向上につながるはずです。
内部統制にてコンプライアンスを強化すると、企業としての価値も高まるのではないでしょうか。
メリット②株主からの信頼を得られる
コンプライアンスの強化は、株主からの信頼獲得にも役立ちます。内部統制の目的には「財務報告の信頼性」が含まれているためです。
株主にとって財務報告の信憑性は利益を得るために重要な要素となります。 内部統制によるコンプライアンスの強化を行えれば、企業の透明性が高くなり株主からの信頼が得られるでしょう。 結果的に資金調達をしやすくなることから、企業の利益にもつながります。
メリット③従業員とのトラブルを防げる
最後のメリットは、従業員とのトラブルを防ぎやすくなることについてです。 内部統制を整備してコンプライアンスを強化すれば、社内規定が明確になります。従業員全員が、どのような規範を守るべきかわかりやすくなるためトラブル防止につながるはずです。
たとえば経営層が「常識的に行うべき」と考えているルールがあったとして、社内の従業員全員が同じ考えであるとは限りません。人の価値観や考えはさまざまで、明確にしなければ理解してもらえないこともあるでしょう。 従業員とのトラブルを避けるためには、内部統制によってコンプライアンスを強化することが効果的です。
内部統制とコンプライアンスを実践する際のポイント
それでは内部統制とコンプライアンスを実践するときの2つのポイントについてご紹介します。
ポイント①形骸化を防ぐ
実践の際に注意したいことは、形骸化を防ぐことです。内部統制を整備したとしても、そのままにしておいては形骸化してしまうことがあります。
コンプライアンスの実現は、全従業員の意識によるところが大きいものです。意識から失われてしまえば、内部統制を行ったとして実現は難しくなります。
そこで定期的に見直しや改定を行って、形骸化させないようにすることが重要です。実施する目的や重要性を明確にしたうえで、従業員への教育を行うことも欠かせません。
形骸化を防ぐためには、社内にいる人すべてが日常的にコンプライアンスを意識した言動が習慣化されるよう働きかけることが重要です。
ポイント②企業行動規範を意識する
内部統制とコンプライアンスの実践においては、企業行動規範を意識することもポイントとなります。コンプライアンスは実効性の高い規範のうえに成り立つものです。
企業行動規範は社内の従業員に対するガイドラインとなるもの。理解と実践によってコンプライアンス強化の実現につながります。 そのためには研修や教育の場を設けることや、企業行動規範に準じた意思決定を促進する取り組みも求められます。
社外からのフィードバックも取り入れながら、定められた企業行動規範を意識した行動をするよう促していきましょう。
コンプライアンスの強化には内部統制の整備が重要
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで、内部統制とコンプライアンスの関係性と違いについてご理解いただけたと思います。
コンプライアンスを強化するには内部統制が必要であり、両者は切っても切れない関係であると言えるでしょう。 しかしどのように実現していくべきか、具体的な方法にお困りのケースも少なくありません。
HRプラス社会保険労務士法人では、上場企業の顧問を多数行った経験があります。コンプライアンスの強化や内部統制の整備もサポートいたしますので、お困りでしたらぜひお気軽にご相談ください。 [1]
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コラム監修者

特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演