人事労務担当者の方に向けて、企業の健全運営に役立つコンプライアンスとはどのようなものかを解説していきます。
昨今、企業や労働者にとって重要性が増してきた「コンプライアンス」。しかしどのようなことがコンプライアンス違反になるのか、どのように強化していくべきかと悩むことも多いでしょう。
そこでコンプライアンスとはどのようなことを指すのか、概要や実際の違反事例について解説します。また参考にしていただければ、コンプライアンス強化のために実践すべき取り組みもご理解いただけるはずです。
コンプライアンスとは?
コンプライアンスとは「法令遵守」の意味です。最近では就業規則や企業倫理、社会規範を守ることの意味も含まれるようになりました。
法令だけでなく、人としての倫理観や社会規範を守りながら企業を運営することもコンプライアンスに含まれます。 コ
ンプライアンスには次の3つの要素が重要とされます。 これから強化を行い整備をするには、次の3つの要素の内容について把握しておきましょう。
法令
法令とは、国によって制定された法律・政令・府令・省令のことです。コンプライアンスの本来の意味は、法令を遵守することであったため、最も重要な要素であると言えるでしょう。
国だけでなく、各自治体によって定められた条例・規則が含まれることもあります。 代表的な例としては、労働基準法や食品衛生法、著作権、独占禁止法、景品表示法などがあげられるでしょう。法に反する行為はすべてコンプライアンス違反となります。
就業規則
昨今では就業規則もコンプライアンスの中に含まれるようになりました。 従業員を常に10人以上雇用している企業であれば、労働基準法によって就業規則を定めなければならないとされています。
(作成及び届出の義務) 第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
就業規則に記載された事項は、従業員全員が遵守すべきルールです。作られた就業規則を守らなければコンプライアンス違反となります。
また従業員を常に10人以上雇用しているにも関わらず、就業規則を作成しないことは労働基準法違反です。そのため作成しないこともコンプライアンス違反とされるでしょう。
法に則って就業規則を作成すること、就業規則を守ることもコンプライアンスです。
企業倫理・社会規範
コンプライアンスの要素のひとつであるのが、企業倫理・社会規範です。法令遵守の意味を持つコンプライアンスですが、倫理や社会規範は法令ではありません。社会的に人として求められる倫理観や、公序良俗の意識の高さが求められる要素です。
法令で定められていないからと言って、どのようなことをしても良いわけではありません。倫理的な行動を取ることは、企業としても社会人としても求められるはずです。
例えば、ハラスメントやジェンダー差別の禁止などが該当します。 企業倫理や社会規範に沿った行動を取ることも、コンプライアンスの一環となります。
内部統制との違い
コンプライアンスと内部統制は一見似ているように見えますが、内部統制は仕組みであり、コンプライアンスは目的と位置づけられます。
内部統制とは企業を健全に運営するための、企業内部における仕組みのことです。そして内部統制には次のような4つの目的があります。
○業務の有効性と効率性 事業活動の有効性と効率性を達成すること ○財務報告の信頼性 財務報告の信頼性を確保すること ○業務に関わる法規の遵守 企業に関連する法令等の遵守を促進すること ○企業財産の保全 財産の不正な取得、使用及び処分を防止又は発見すること
3つ目の目的がコンプライアンスに該当します。 以上のように内部統制とは企業運営のための仕組みであり、コンプライアンスは内部統制の目的のひとつです。
コーポレートガバナンスとの違い
コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違いは、「仕組み」であるか「手段」であるかという点にあります。内部統制とコンプライアンスの関係性に近いものです。 コーポレートガバナンスは金融庁によって、次のように定められています。
「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
企業の健全な運営を支える仕組みである点は、内部統制と共通しています。しかし対象となる範囲の幅に違いがあります。コーポレートガバナンスは、従業員や顧客に加えて、株主や地域社会も対象に含まれます。対して内部統制は社内に対して適用される仕組みです。
そしてコーポレートガバナンスのためには、コンプライアンスの徹底が求められます。
コンプライアンスを徹底することで企業の透明性が高まり、コーポレートガバナンスの実現にもつながります。
コンプライアンスが注目されている背景
それではコンプライアンスが注目されている背景について見ていきましょう。近年では、主に2つの観点からコンプライアンスの徹底が求められています。
1.企業の不祥事が増加している
第一に、企業の不祥事の増加が背景として挙げられます。 バブルが崩壊してから、景気が低迷した日本。不況の状況では粉飾決算や不正融資、産地偽装などの不正が頻発するようになりました。
そこで重要視されるようになったのがコンプライアンスです。 企業の不祥事は、法令や社会規範を守ることによって未然に防げる問題であると言えます。コンプライアンスの徹底は、企業の不祥事を防ぐための礎となるでしょう。
2.グローバル化が進んでいる
グローバル化が進んでいることも理由のひとつです。現代ではインターネットやSNSによって、企業の不祥事はあっという間に広まってしまいます。
閲覧者はスマートフォンさえ持っていれば、世界中の情報をいつでもすぐに見られる状況です。一方で、情報を発信する企業側では、倫理観に欠けていたり、不適切な発言をしたりすると瞬時に広まり多くの批判を浴びることになります。そのため発信する情報がコンプライアンスに反していないか、精査する必要性が生じるようになりました。
グローバル化によって、企業が発信する情報はより多くの人の目に触れるようになります。コンプライアンスに反する情報は企業にとって重大なリスクとなるため、注目度が高まったと考えられるでしょう。
コンプライアンス違反が発生する理由
コンプライアンスへの注目度が高まっているにも関わらず、なぜ違反が発生してしまうのか。3つの理由について見ていきましょう。
理由1:コンプライアンスの知識がない
コンプライアンス違反が引き起こされる根底にあるのは、コンプライアンスへの知識不足です。知識がなければ、個人の価値観や考えに沿った行動をするため、無意識にコンプライアンスに反してしまうことも少なくありません。
たとえば労働基準法や景品表示法、最低賃金への知識の欠如があれば、意図せず法令に反してしまうこともあるでしょう。経営層はもちろん、従業員にコンプライアンスの知識がない場合も違反が起こりやすい状況になってしまいます。
理由2:ノルマを過剰に課している
ノルマを過剰に課していることから、従業員がコンプライアンス違反を起こしてしまうことも少なくありません。コンプライアンスの知識があっても、意図的に違反に至るケースも見られます。
ノルマをこなすこと、インセンティブを得ることが難しいと、不正が起こりやすくなります。不当な手段を使って成果を上げようとすることもあるでしょう。
コンプライアンス違反を防ぐには、ノルマの設定や評価制度の見直しが必要となります。
理由3:コンプライアンスを管理する仕組みがない
中小企業におけるコンプライアンス違反の原因として多いのが、コンプライアンスを管理する仕組みの不十分さです。 企業内で規定やルールが周知できていない、システムの脆弱性により、情報漏洩が発生しやすい状況も見受けられます。 コンプライアンスの定義は法令・倫理・社会規範などを遵守することです。しかし人によって、基準が曖昧であることもありえます。特に倫理や規範に関しては、個人差が大きくなりやすい傾向があります。そのため仕組みが確立されていないと違反が起こりやすくなります。
コンプライアンス違反の事例
それでは実際のコンプライアンス違反の事例について4つのパターンをご紹介します。
事例1:法令違反
コンプライアンス違反の中でも、最も重大とされるのが法令違反です。法令や法律に反した場合、刑事処分や行政処分を受ける可能性があります。また顧客や取引先との契約停止なども考えられるでしょう。
コンプライアンスは「法令遵守」のことを指します。法令を遵守することで企業の健全な運営を実現するため、法令違反は絶対に避けるようにしましょう。
事例2:労働問題
労働問題も多く見られるコンプライアンス違反のひとつです。労働問題の多くは長時間労働やサービス残業、ハラスメントによって起こる傾向があります。
長時間労働や時間外労働の賃金な労働基準法によって定められます[1][2]。そしてハラスメントに関しては、全企業に対してパワーハラスメント防止措置が義務化されました[3]。つまり、いずれも遵守されなければ法令違反と見なされます。
また労働問題は倫理観の欠如であるとも言えるでしょう。労働に対して正当な対価を与えないことや、ハラスメントによって相手の人権を損なうことは倫理的ではありません。
労働に関する各種法令を無視すること、ハラスメントによる人格を否定する行為も、コンプライアンス違反と見なされます。
事例3:不正経理
架空請求、業務上横領、粉飾決済などの不正経理もコンプライアンス違反です。内部統制においても「財務報告の信頼性」は目的のひとつとして掲げられています[4]。
不正経理が発覚すると、社会的信用を失墜します。取引先との契約が打ち切れてしまうことや、顧客や消費者の離反もあるでしょう。また従業員が離職する、求人への応募数が減少するなど、人手不足に陥ることも考えられます。
結果的に企業の運営は非常に厳しくなるはずです。健全な運営を目指すためだけでなく、企業の存続のためにも不正経理は厳しく取り締まられなければなりません。
事例4:情報漏洩
最後に情報漏洩についてです。顧客の情報が流出することはもちろん、企業の機密情報が漏れ出したり、インサイダー取引が行われたりすることも情報漏洩に含まれます。
漏洩した情報の内容によっては、顧客とのトラブルが発生したり、社会的信用が失墜したりするでしょう。また企業の存続が危ぶまれるかもしれません。
システムやセキュリティー対策が脆弱である場合に引き起こされやすいコンプライアンス違反が情報漏洩です。
コンプライアンス違反を起こさないための取り組み
企業にさまざまな影響を及ぼすコンプライアンス違反。未然に防ぐには、企業内での取り組みを徹底していく必要があります。
取り組み1:行動規則やマニュアルの作成
まずは、行動規則やマニュアルを作成する必要があります。企業内で遵守すべき事項や望ましい行動を明文化することが求められます。
企業内で行動規則やマニュアルなどのルールが確立されていないと、従業員個人の判断に任せることになってしまいます。仕組みが整備されておらず、明文化されていない場合には、コンプライアンス違反が発生しやすくなります。
取り組み2:研修の実施
研修を実施することも有効な取り組みの一つと考えられます。ひとつ前の項目でご紹介したように行動規則やマニュアルを作成したら、内容を周知するための研修を行ってください。
コンプライアンスに対する従業員の理解度を深め、実践へと導くには、研修を通じて内容を正しく周知することが重要です。
取り組み3:相談窓口の設置
取り組みのひとつとして、相談窓口を設置することもおすすめの方法です。従業員からコンプライアンス違反の報告を受けることで、迅速な是正が可能となります。
相談窓口では匿名で報告できる体制を整えてください。報告者の情報が漏れると、ハラスメントに発展し、新たなコンプライアンス違反を招く可能性があります。
対面ではもちろん、チャットやメールなどのシステムも利用し、誰もが安心して報告できる体制を整えることが重要です。
取り組み4:外部機関への相談
外部機関に相談できる体制を整えておくことも有効な取り組みとなります。たとえば弁護士事務所や社会保険労務士事務所に相談できるようにすれば、いざというときにスムーズに対応できるはずです。
法令の改正や新法の施行時にも、迅速に情報を把握できる体制が整います。外部機関の専門家との連携があれば、より効果的にコンプライアンス違反の防止が期待されるでしょう。
コンプライアンスとは法令・倫理・社会規範の遵守
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで、コンプライアンスとはどのようなものかがご理解いただけたと思います。
コンプライアンスは法令遵守との意味がありますが、倫理や社会規範、社内規定を守って行動することも含みます。
もしコンプライアンス強化への取り組みが必要だと感じられているなら、HRプラス社会保険労務士法人までご相談ください。スタッフ全員が有資格者であり、弁護士との強いパイプも保持しているため、さまざまな観点からサポートをいたします。 [1]
[2]
参照:厚生労働省:(PDF)しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-
[3]
参照:厚生労働省:(PDF)職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!
[4]
参照:金融庁:(PDF)
コラム監修者

特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年以上にわたり、220件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
※2024年支援実績:労務DD22社 東証への上場4社
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演