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公開日:2024.06.22

更新日:2014.07.28

海外赴任者に関する労務管理のキホンの「キ」

昨今は大企業だけでなく中堅企業やベンチャー企業も積極的に海外進出を果たしています。しかし、海外展開の経験やノウハウに乏しいため、実際に海外へ赴任して事業運営にあたる社員に対する労務管理は必ずしも整備されているとはいえません。本稿では、海外赴任者の労務管理について考えてみましょう。

海外赴任は、①国内企業の海外支店、営業所へ所属を移す「配置転換」、②国内企業に在籍のまま海外関連企業(現地法人、合弁会社、提携先企業など)の従業員や役員として海外企業の業務に従事する「出向」、③国内企業では退職の手続きを取ったうえで海外関連企業へ移籍し、従業員や役員として海外企業の業務に従事する「転籍」の3つに区分されます。このうち、多くの企業は現地法人への在籍出向、すなわち②の方法によって社員を海外に赴任させています。

海外赴任者には、「属地主義の原則」によって赴任先の国が定める法令の適用を受けることが原則となります。したがって、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、男女雇用機会均等法など日本の労働法は、海外の事業所には適用されないことになります。たとえば、時間外労働については、日本本社は法律上の割増賃金の支払い義務を負いませんが、赴任国によっては日本よりも法定労働時間が長いケースもあり、赴任者との間でトラブルが起こることがあります。そのため、属地主義について海外赴任規程に明確に規定して周知しておくとともに、別途当該時間分を見込んで海外赴任手当を支給するなどの調整を要することになるでしょう。

また、労働者災害補償保険法についても同様に属地主義の原則により海外事業場では適用を受けませんが、第三種特別加入という制度があり、所定の手続きを経ることで海外事業場において被災した場合でも労災保険給付を受けることができます。

社員を海外企業へ出向させるためには、就業規則に定めがあったり、入社時の誓約書などにおいてあらかじめ同意が認められるのであれば、それを根拠に命じることは可能となります。しかし、単に「出向を命じられた社員はこれを拒むことができない」と規定されているだけだと、通常、国内の関連会社への出向を予定しているに過ぎないと解され、海外事業所へ出向させる場合にトラブルとなる場合があります。これを避ける意味でも、就業規則に「海外への出向」と明示しておくことが必要でしょう。また、入社当時は海外事業所がなく、その後設立されたような場合に出向させる場合は、原則として個別の合意が必要となるものと考えられます。

海外赴任者に対する賃金は、赴任国の法令などによっても本人の手取り収入が目減りすることがないよう、手取り額から社会保険料、所得税を逆算し積み上げていって総支給額を決定する「グロスアップ計算」方式が採用されます。

また、海外赴任者に対する賃金には、「No Loss,No Gain(ノーロス・ノーゲイン)の原則」という考え方を取り入れる企業が多くみられます。これは、海外赴任したことでも日本で勤務していたときと「損も得もしない」という考え方です。原則として海外に赴任すると非居住者となり日本における所得税はかからなくなりますが、赴任国の税制が適用されます。海外の税制は課税範囲も税率も異なりますので、日本における所得税と同額を控除して、現地の税金は会社が全額負担する措置をとることになります。つまり、「みなし所得税」を控除して日本での賃金と手取り額に差が生じることのないよう調整するわけです。

海外赴任者への賃金の支払い方法には、主に「購買力補償方式」「別建て方式」「併用方式」の3つに大別され、このうち現在のトレンドとして「購買力補償方式」が主に採用されています。

購買力補償方式は、日本での賃金水準を基準として、現地の生活費指数や為替レートを考慮の上、賃金額を決定する方法です。この方式は、大手企業が採用するケースが多く、主に物価の高い国への赴任者に対して用いられることが多くみられ、コンサルティング会社などが発表している海外の都市別に定められた生活費指数をもとに賃金水準を決めていきます。この生活費指数は、東京を100として各都市を指数化されています。これにより、現地の生計費に合致した合理的な支給水準を確保することができる、日本と赴任先間あるいは赴任先間のバランスを保つことができる、為替や物価変動に対しても比較的柔軟に対応できる、といったメリットを享受することができます。

海外赴任者の労務管理は、「このケースではどう対応するか?」という一つ一つの問いに対して会社のスタンスを検討し、それらを海外赴任規程に定めていくことが大切です。

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