この事件は、うつ病により傷病欠勤等をしていた従業員が、会社に対して復職の申し出を行ったところ、拒否されたため、会社の復職拒否には正当な理由がないとして、自らが主張する復職可能時より支払われるべき賃金等の支払いを求めたものです。
1.平成21年10月1日、原告は年次有給休暇を取得したあと傷病欠勤に入る。
2.平成22年9月2日、原告は主治医の診断書を会社に提出。
3.9月10日からの復職の意思表示をするもの会社はこれを拒否。
4.平成23年3月31日、傷病欠勤期間が終了。
5.平成23年4月1日、傷病休職を命じる。
6.平成23年4月11日までに会社の復職プログラムを履践。12日からの職場復帰を求めたが会社は産業医の意見を聴いて復職を認めず。
7.平成24年9月18日、原告はリハビリ出勤を経たうえで原職復帰。その際、平成22年9月~平成24年9月の未払い賃金を請求。
このような推移で訴えを提起されたわけですが、平成22年9月10日の時点で復職が可能であったとの原告の主張に対して、裁判所はこれを認めなかった会社について、下記を理由に会社に責に帰すべき事由は事由はなかったとしました。
・「今後も職場における対人関係が休職前と同様である場合には、再度症状の悪化を招く可能性があり、その点に対する配慮が必要」と原告の主治医の回答文書に記載されていたこと。
・産業医は復職可能という判断はできないとの意見があったこと。
次に、平成23年4月12日以降、原告の提供する労務の受領を拒絶したことについて正当な理由はないとの原告の主張について、会社は、メンタルヘルス不調者の職場復帰の可否判断について、診療所、人事局、原職場という三段階のリハビリ出勤を経る運用をしているにもかかわらず、原告がつらいなどの理由でリハビリ出勤のペースを落とし、人事局および原職場へのリハビリ出勤に進もうとしなかったこと、産業医としては人事局、原職場へのリハビリ出勤をしてみないと復職可能という判断はできないという意見であったこと等の事情を指摘し、原告には復職可能であったとは認められないとした会社の判断には正当な理由があるとしました。
以上のことから、裁判所は原告に対する会社の復職拒否はいずれも正当であるとして、原告の復職を前提とした賃金請求を斥けました。
この判例から学べることは、うつ病などのメンタル疾患を罹患した休職中の社員が復職をめぐる対応として、産業医と緊密な連携を取ながら復職可能とする基準を具体化していくことのほかに、主治医に対しても復職可能とする理由や程度を文書で聴取することが重要だといえるでしょう。
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コラム監修者
特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年にわたり、200件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演
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