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公開日:2024.06.29

更新日:2018.09.10

海外赴任者と労働者災害補償保険(労災保険)制度について

今回は、海外赴任者を労働災害から守るための労働者災害補償保険特別加入制度について見ていこうと思います。

労働者災害補償保険特別加入制度


労働者災害補償保険(以下、労災保険)は、本来、労働者が業務上・通勤災害に遭遇し、
・労働者が負傷した時
・疾病に罹患した時
・障害が残った時
・死亡した時
に被災労働者本人、または、被災者の遺族に必要な保険給付を行う制度です。
また、本来であれば、属地主義、すなわち、日本国内(日本国の法律が及ぶ範囲内)での労働者を対象にするものであります。

しかしながら、近年、国際化が進み、日本から海外赴任をして働く労働者の数も増えていることから、例外的に、下記の条件を満たす者については、労災保険の特別加入を認め、海外赴任期間中の労働災害・通勤災害への備えを行うことが可能です。

① 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として赴任する人
② 日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業に事業主等(労働者ではない立場)として赴任する人

この場合、事業規模判断は、事業場ごとでなく、国ごとに企業単位として判断されます。

金融業・保険業・不動産業・小売業:50人以下
卸売業・サービス業:100人以下
上記以外の業種:300人以下

労災保険料については、給付基礎日額(\3,500~\25,000)×365日×4/1000で計算されます。

加入方法は、海外へ赴任する労働者が所属する日本側の事業所を管轄する労働基準監督署へ「労働者災害補償保険特別加入申請書(海外派遣者)」の書類に必要事項を記載の上、提出する必要があります。
また、申請書に記載された人が、実際に海外事業に従事するようになった時点で、「労働者災害保険 海外派遣に関する報告書」を提出する必要がありますので、手続き上、注意が必要です。

日本国内に勤務する労働者が、一時的に海外出張に行く場合には、その期間、労働者災害補償保険特別加入制度の申請をしなくとも、労災保険の適用範囲内となります。
海外の事業主と雇用関係を締結し、海外で勤務する場合には、本制度は利用できないので注意が必要です。

社会保障協定と労災保険の関係

日本と海外との社会保障協定を結んでいる国の中で、日本側では労災保険の適用を免除せず、相手国側で労災保険の適用を免除する協定を設けている国があります。これは、海外の相手国側が公的年金制度の中に、雇用保険と労災保険の制度を組み込んだ制度を設けているためです。
本来、公的年金制度の保険料の二重払い免除を防止する観点で設けられている制度ですが、社会保障協定に基づく相手国側の年金保険料の免除申請を行うと雇用保険・労災保険も公的年金と併せて、相手国側で加入できなくなる国もあるので、注意が必要です。
2018年8月現在、社会保障協定に基づいて、相手国側の年金保険料免除の申請を行うと相手国側の労災保険制度の給付が受けられなくなる国は下記の通りです。

・ベルギー
・フランス
・ルクセンブルグ
・スロバキア

上記への赴任の予定がある方は、日本を出国する前に労災保険の特別加入手配を忘れずに行う必要があります。
手配を忘れると日本側・相手国側で労働者にかかる労災保険について、無保険状態となりますので、リスクが非常に大きくなります。

まとめ


労災保険は労働者が業務災害・通勤災害に遭遇した場合に必要な給付を行い、労働者の生活を守ると共に、それに伴う企業の経済的負担についてリスクヘッジをするものです。海外赴任では、日本国内に比べ、まだまだ労働環境がきちんと整っていない、治安の悪い地域が数多くありますので、適切な手続を行うことが必要です。

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