海外赴任や出張についてトピックとして焦点を当ててご紹介しておりますが、今回は日本と中華人民共和国(以下中国)との間で2019年9月1日から年金制度に関して、一時的(概ね5年以内)に赴任する者で厚生年金に加入する者の社会保険料の二重払いを防止する社会保障協定が発効するので、その点についてご紹介したいと思います。
在中邦人を取り巻く状況
外務省が毎年10月に出す海外在留邦人数統計調査によると2017年10月1日現在の状況で、中国には、約124,000人居住しており、在外邦人数は、アメリカ合衆国に次ぎ第二位の数となっています。
しかしながら、長らく中国との間には社会保障協定がなく、また、中国の社会保険法の外国人への適用整備については2011年7月まで未整備だった部分も多く、年金保険料納付について右往左往する状況が続いておりました。2011年10月15日以降、中国国内における居住許可を持つ外国人に対する本格的な年金保険料徴収が暫定法で整備され、中国に居留する日本人に対しても中国の年金保険料の納付が義務付けられました。
ここから、今日に至るまで、特に、日本から中国支社等へ在籍出向する日本人駐在員については、年金保険料の二重払い、日本の老齢年金にあたる中国の養老年金受給権が発生する15年の期間に満たすほどの期間の加入ができずに社会保険料の掛け捨ての問題が顕著となりました。また、今日においても、中国の養老年金制度自体、名称は一元化されているものの、中国全土で一律の制度運営ではなく、戸籍移動がそもそも難しい中国では、地方から都市、都市間人事異動を想定したものとはなっていません。各地方で保険料納付水準や給付水準がまちまちで中国人の方も戸惑う場面も多々ある不安定な制度であるのも現状です。
社会保障協定が発効するとどうなる?
まず、気になる点は、既に本邦企業に在籍し、中国に赴任している方の厚生年金保険の加入の件です。協定発効日が2019年9月1日からとなりますが、これより前から赴任されている方は、協定発効日から5年間は日本側の厚生年金保険制度加入のみへの切り替えが可能となります。中国側の養老年金保険側の免除を受けるための日本側の年金適用証明書発行が2019年8月1日から日本年金機構で受付が開始されます。
個人事業主の方で中国国内に居住、就業予定の方につきましては、中国側で養老年金が任意加入制度のため、今回の社会保障協定の対象外となります。中国側の養老年金制度に任意加入するか、日本の国民年金制度に任意加入するかの選択となります。
日本国籍保持者で中国国内企業(中国国内にある日本企業も含む)に現地採用されている方については、本制度の対象外となり、中国の養老年金への加入が義務となります。中国で15年以上の保険料納付が見込めない場合には、日本側の国民年金任意加入制度を利用して年金受給権を確保する措置等を講じる必要があります。この部分については、年金保険料二重払いの懸案解消には至っていないので注意が必要です。
まとめ
中国へ既に赴任されている方、これから赴任される方の年金について、この制度を利用することは、保険料の二重払いを避けると共に、中国側の複雑かつ不安定な年金制度の煩雑な手続きを簡略化、省力化する大きな意味合いを持っています。また、従業員の老齢による年金受給権確保の観点から制度利用の是非を検討してみてはいかがでしょうか。
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コラム監修者
特定社会保険労務士
佐藤 広一(さとう ひろかず)
<資格>
全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13000143号
東京都社会保険労務士会 会員番号 1314001号
<実績>
10年にわたり、200件以上のIPOサポート
社外役員・ボードメンバーとしての上場経験
アイティメディア株式会社(東証プライム:2148)
取締役(監査等委員)
株式会社ダブルエー(東証グロース:7683)
取締役(監査等委員)
株式会社Voicy監査役
経営法曹会議賛助会員
<著書・メディア監修>
『M&Aと統合プロセス 人事労務ガイドブック』(労働新聞社)
『図解でハッキリわかる 労働時間、休日・休暇の実務』(日本実業出版社)
『管理職になるとき これだけはしっておきたい労務管理』(アニモ出版)他40冊以上
TBSドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』監修
日本テレビドラマ『ダンダリン』監修
フジTV番組『ノンストップ』出演
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