• 人事労務

公開日:2024.06.29

更新日:2020.11.26

SOGIハラとアウティングについて

今回のコラム「ハラスメントシリーズ」は、パワーハラスメントの一種である「SOGIハラ」「アウティング」についてご説明いたします。

◆SOGIハラ・アウティングとは

労働施策総合推進法の改正により、パワハラ防止措置が義務化(中小企業は努力義務)されてからまもなく半年が経ちます。各事業主は、就業規則にパワハラ禁止の条項を新設したり、パワハラ防止研修を実施したりと対応を進めていることと思います。「SOGIハラ」「アウティング」はそのような規程や研修で扱われることはまだ少ないですが、パワハラの一種として、またダイバーシティの観点から理解しておくべきテーマとして今回取りあげます。

・SOGIハラとは

性的指向(Sexual Orientation)

→人の恋愛や性愛の感情がどの性別に向かうかを示す概念

性自認(Gender Identity)

→自分の性別についてどのように認識しているかを示す概念

の頭文字を取って「SOGI」と呼び、これらに関する侮辱的な言動を言います。

一方

・アウティング(Outing)とは

本人の性的指向や性自認を本人の同意なく第三者に暴露することです。

◆パワハラ防止指針とLGBT

「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」いわゆるパワハラ防止指針では、職場のパワハラに該当すると考えられる例としてSOGIハラとアウティングについて以下のとおり明記されています。

・精神的な攻撃

人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。

・個の侵害

労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

つまりSOGIハラとアウティングは、れっきとしたパワハラの一形態として事業主は防止措置を講じなければならないのです。

「ホモって気持ち悪い!うちの会社にはそんな人いない」といった差別的言動がまだ多くの職場であるのではないでしょうか?職場の飲み会でオカマネタで笑いを取ろうとしてる社員はいないですか?統計調査(電通ダイバーシティ・ラボ)では、我が国におけるLGBT人口は800万という結果が出ています。割合にして13人に1人。決して珍しい存在ではないのです。職場でLGBTが身近にいるとしたら差別的な言動はあってはならないですよね。むしろ、ダイバーシティ経営の観点から、LGBT当事者が本音を話せて、お互いを理解し合い、働きやすい職場環境に変えていくことは生産性の向上につながっていくと言われています。

ちなみにLGBTとは以下の総称です。

L:レズビアン(女性として女性が好きな人)

G:ゲイ(男性として男性が好きな人)

B:バイセクシュアル(同性も異性も好きになる人)

T:トランスジェンダー(心と体の性に不一致を感じる人)

トランスジェンダー(戸籍上の性別が男性で、自らを女性と認識する性同一性障害者)に対するハラスメントの裁判例として、職場の女性トイレを自由に使用させなかったこと及び直属の上司から「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ったらどうか」との発言などにより130万円の賠償を認めた事件(経済産業省事件 東京地裁令元.12.12)では、「性同一性障害を含むトランスジェンダーの人が働きやすい職場環境を整えることの重要性はますます強く意識されるようになってきている」「個人がその真に自認する性別に則した社会生活を送ることができることは、重要な法利益として、国家賠償法上も保護されるものというべき」と判示しています。

◆職場のSOGIハラ・アウティング防止について

以上のようなことから、会社としてSOGIハラ・アウティング防止のための対策を以下に挙げます。

(1)禁止規定と周知

就業規則やハラスメント防止規定で、性別・国籍・宗教・障害の有無などによる差別を禁止したり、セクハラ・マタハラ・パワハラ禁止を明記している会社は多いと思います。この差別・ハラスメントの禁止項目にLGBTを加えて、社内周知を徹底してください。

厚生労働省のモデル就業規則(第3章服務規律)に

(その他あらゆるハラスメントの禁止)

第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性的自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

とありますので参考例としてください。

(2)研修の実施

LGBTに関する研修を実施することが望ましいです。LGBTという言葉は聞いたことがあるがその意味を正しく理解している人は少ないと思われます。まずはLGBTに関する基礎的な知識研修を実施するとよいでしょう。経営陣を含め全社員を対象にです。

(3)相談体制について

社員向けハラスメント相談窓口において、SOGIハラ、アウティングなどについての相談も対応できるようにしましょう。一定規模の社員を抱える企業であれば、LGBTの社員はいると予想されます。相談件数はない、あるいは少ないかもしれませんが、いざというときには相談できる窓口があると安心します。相談窓口の担当者はLGBTに関する研修を受講するなどして正確な知識を習得するとともに、プライバシー確保に十分配慮することが重要です。

◆最後に

コンプライアンスとダイバーシティの両面で「SOGIハラ」「アウティング」については正しい理解と適切な防止対策が求められます。ぜひこれを機会にみなさんの会社・職場で何ができるかを考えてみてください。

※昨日11月25日「一橋大学アウティング事件」の東京高裁の判決が出されました。ゲイであることを同級生にアウティングされた一橋大学法科大学院の学生がキャンパス内の建物から転落死したことに対して遺族が大学側に損害倍書などを求めた裁判の控訴審で、東京高裁は大学が安全配慮義務を怠ったとは言えないとする一審判決を支持し、原告の控訴を棄却しました。一方、一審判決では言及されなかったアウティングについて「人格権ないしプライバシー権を著しく侵害するものであって、許されない行為であることは明らか」と明言しました。アウティングが「許されない行為」であると認定された初めての判決として、今後アウティングへの問題意識に変化をもたらすことを期待したいと思います。

労務DDのご相談ならHRプラス社会保険労務士法人までお問い合わせください。

関連記事