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公開日:2024.06.29

更新日:2023.11.20

職場におけるハラスメントの防止方法と相談をうけたときの対処法

職場でハラスメントが起きると、企業は生産性の低下やブランドイメージの低下などに直面する恐れがあります。
ハラスメントの内容を理解して、対策を講じておくことが大切です。
具体的に、どのような対策を講じればよいのでしょうか。

ここでは、ハラスメントの概要と種類を解説するとともにパワハラ防止法で企業が求められる防止措置の内容と従業員から相談を受けたときの対応方法などを紹介しています。
ハラスメントの防止方法を検討中の方は参考にしてください。

ハラスメントとは

 

「harassment」は、迷惑をかけることや嫌がらせをすることなどを意味する英単語です。
日本で用いる場合は、相手に嫌な思いをさせたり相手の尊厳を傷つけたりする言動(いじめや嫌がらせ)と考えればよいでしょう。
ポイントは、故意の有無を問わないことです。行為者に特別な考えがなかったとしても、相手に嫌な思いをさせたり相手の尊厳を傷つけたりすると該当する恐れがあります。
職場で起こりやすいハラスメントの種類は次の通りです。

【ハラスメントの種類】

  • セクシャルハラスメント
  • パワーハラスメント
  • マタニティハラスメント
  • アルコールハラスメント
  • その他のハラスメント

相手に嫌な思いをさせたり相手の尊厳を傷つけたりする言動を指すため、ハラスメントの種類は社会の価値観の変化などにより増減することが考えられます。
種類を問わず、組織の雰囲気や生産性、離職率などに悪影響を及ぼす恐れがあるため注意が必要です。

ハラスメントの種類

ここからは、5つのハラスメントについて詳しく解説します。

 

セクシャルハラスメント

以下の2つに大きく分かれます。

【内容】

  • 職場で行われる他人を不快にさせる性的な言動
  • 職場外で行われる他の従業員を不快にさせる性的な言動

前者の場合、行為の方向は「従業員から従業員」「従業員から従業員以外」「従業員以外から従業員」が考えらえます。
対象は「男性から女性」「女性から男性」「女性から女性」「男性から男性」です。
「男性から女性」に限定されるものではありません。

ここでいう職場は、毎日、働いている職場だけでなく、出張先や業務と考えられる飲み会の席なども含みます
労働者は、正規雇用・非正規雇用を問いません。また、派遣労働者も含むと考えられます。

性的な言動は、欲求・関心によるもののほか、性役割に基づくもの、性的嗜好・性的自認に関する偏見に基づくものなどを含むといえるでしょう。
具体的な判断は、原則として受け手の主観(どう感じるか)によります

該当しうる言動の例は次の通りです。

【言動の例】

  • 性的な経験について聞く
  • 食事へ行こうと何度も誘う
  • 性的な冗談を述べる
  • 男らしく、女らしくなどの発言をする

価値観などによっては、何気ない会話が問題になることもあります。

 

パワーハラスメント

「優越的な関係を背景」とし「業務上必要かつ相当な範囲を超えている言動」により「職場の就業環境が害されること」です。
以上の3要件全てを満たしている言動がパワーハラスメントと考えられます。
したがって、業務に必要な範囲の指導などは該当しません。

ここでいう優越的な関係は、被害者が拒むことは難しいと考えられる関係です。
この関係が認められる場合、同僚や後輩からの言動も該当しえます。

業務上必要かつ相当な範囲は、基本的に一般に通用している常識で判断します。
必要性が明らかにない場合やその在り方が業務に相応しくない場合は範囲を超えているといえるでしょう。
職場の就業環境が害されるとは、当該言動の影響で能力を発揮できなくなるなど業務に支障が生じることを指します。

ここでいう職場は、オフィスなどに限られません。
社員寮なども、一定の条件を満たせば職場とみなされることがあります。
労働者は、正規・非正規の区別なく、すべての労働者を指します。

パワーハラスメントの代表的な6類型は以下の通りです。

【類型】

  • 身体的な攻撃
  • 精神的な攻撃
  • 人間関係からの切り離し
  • 過大な要求
  • 過小な要求
  • 個の侵害

例えば、合理性を認められないほど激しく叱責するなどはパワーハラスメントになりえます。

 

マタニティハラスメント

職場における言動で、妊娠・出産した女性の働く環境が害されることをいいます(育児休業を申請・取得した男性従業員の労働環境を害する言動はパタニティハラスメント)。
職場・労働者の定義は、基本的にセクシャルハラスメント・パワーハラスメントと同じです。
職場はオフィス、労働者は正規雇用に限られません。

具体的な例として、妊娠・出産した事実に対する嫌がらせをする、妊娠・出産に関する制度の利用を阻害する、制度を利用した従業員に嫌がらせをするなどが考えられます。

ポイントは、解雇・減給などといった扱いはハラスメントではなく不利益な扱いに該当することです。
不利益な扱いは、男女雇用機会均等法や育児 ・ 介護休業法で禁止されています。
業務上必要な範囲の言動(例えば、従業員の意向を踏まえた確認など)は基本的に該当しません。

参考:厚生労働省|雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために

参考:厚生労働省|育児・介護休業法について

 

アルコールハラスメント

飲酒に関連する嫌がらせです。具体的には、次の行為などを指します。

【行為の例】

  • 飲酒の強要
  • 意図的に酔い潰す
  • 一気飲み
  • 酔いに起因する迷惑行為
  • お酒を飲めない人に対する無配慮

これらの行為は職場でも行われる可能性があります。

参考:厚生労働省|アルハラ | e-ヘルスネット

 

そのほかのハラスメント

これらのほかにも、さまざまなハラスメントがあります。
職場で起こりやすいその他のハラスメントとして、時短ハラスメントモラルハラスメントがあげられます。

時短ハラスメントは、残業時間を減らす対策を講じないまま上司が部下へ定時退社などを強要することです。
働き方改革に伴い増えているハラスメントといえるでしょう。

モラルハラスメントは、道徳や倫理に反する言葉・態度・文書などで相手を追い込むことです。
パワハラとの違いは、行為者と被害者の関係性を問わないことです。フラットな関係でもモラハラは起こります。

 

「パワーハラスメント防止法」と企業に求められる措置

 

2019年に労働施策総合推進法(通称:パワーハラスメント防止法)が改正されたことで、2022年4月から中小企業もハラスメント防止措置が義務付けられました。
具体的には、次の取り組みを行わなければなりません。[1]

 

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

ハラスメント内容と事業者の方針

事業者は、ハラスメントの内容や原因などを周知・啓発しなければなりません。
併せて、ハラスメントを行ってはならないとする事業方針を明確にして社内ルールに定めるなども求められます。

対処の方針と規定の周知・啓発

行為者に厳しく対処する旨の方針と対処の内容を就業規則などに定めて周知・啓発します。
具体的には、行為者に対して懲戒規定を定めて、これを周知・啓発するなどが考えられるでしょう。

ここまでの周知・啓発の対象は、管理監督者を含む労働者です。

 

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口の設置

ハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知します。
相談窓口は、実際に機能するものでなければなりません。
したがって、メールや電話でも相談を受け付けるなど、利用しやすさに配慮することが大切です。

体制の整備

担当者が、相談内容に応じて適切に対処できる体制を整備しておくことも欠かせません。
状況に合わせた対応を行えるように、フォロー体制を事前に確立しておく必要があります。
公正な立場で、ハラスメントとは言い切れない事案を含めて、相談を受け付けることも大切です。

 

③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を確認

相談が寄せられた場合は、当事者からヒアリングをして事実関係を迅速に確認します。
被害を継続・拡大させないため、速やかに対処しなければなりません。
事案の内容によっては、事実関係が確定する前に、必要な措置を実施することも考えられます。

被害者への対応

ハラスメントの事実が確認できた場合は、被害者に対する措置を実施します。
ポイントは、被害者に寄り添った対応をすることです。
具体的には、加害者との関係回復をサポートする、行為者に謝罪させる、行為者を異動させる、メンタルケアを実施するなどが考えられます。

行為者への対応

行為の事実が確認できた場合は、就業規則などに従い懲戒などの措置を行為者に対して実施します。
ルールに基づき厳正に対処することが大切です。

再発防止策の実施

ハラスメントの有無にかかわらず再発防止策を実施します。
これまでの措置では不十分と考えられるためです。
専門機関の外部研修を活用するなどが考えられます。

 

④上記の措置と合わせて講ずべき措置

プライバシーの保護

これらとあわせてプライバシー保護に関する取り組みを実施します。
安心して相談できる環境を構築するため、取り組みの内容を周知することも大切です。

例えば、プライバシー保護に関する取り組みを文書化して各部署に掲示するなどが考えられるでしょう。

不利益な扱いをされない旨を定める

相談や協力をしたことで、解雇・減給など、不利益な扱いをされないことを就業規則などに定めて労働者に周知します。
安心して相談できる環境を構築するため必要な取り組みです。

相談などを理由とする不利益な扱いは、労働施策総合推進法のほか介護休業法などで禁止されています。
当事者以外も対象に含まれている点がポイントです。

参考:厚生労働省|労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について

 

パワハラが発生した場合の組織・企業へのデメリットおよびリスク

 

パワハラは、企業にさまざまな悪影響をもたらします。
代表的な影響としてあげられるのが、当事者が機能しなくなることによる生産性の低下組織の信頼性が失われることによる離職率の上昇です。
被害者から損害賠償請求されることも想定しておかなければなりません。
防止策を実施して、未然に防ぐことが大切といえるでしょう。

現在のところ、パワーハラスメント防止法に罰則はありません。
しかし、厚生労働大臣は、必要性が認められるときに事業者へ助言・指導・勧告を行えます。
企業が勧告に従わないときはその旨を公表できます

企業名を公表されて、ハラスメントに対処しない企業などのイメージがつくと、取引先が離れてしまうことや採用活動で応募者を集められなくなることが考えられます。
罰則はなくとも防止策を適切に実施する必要があります。

 

パワハラを防止する方法

 

ここからは、パワハラの防止方法について解説します。

①社内ルールの策定

最初のステップは社内ルールを定めることです。
どのような言動が問題で、どのような処分が行われるかなど、従業員にとってわかりやすいルールを定めることが大切です。

ただし、使用者側だけでルールを設定すると理解を得られないことがあります。
労使で意見を交換しながら、就業規則などを変更してルールを定めましょう。
ルールの策定後は、その内容を労働者に周知しなければなりません。

 

②経営層がパワハラを容認しない姿勢を見せる

並行して取り組みたいのが経営者層からの情報発信です。
職場からパワーハラスメントをなくすことを明確に示します。
企業に与える悪影響を説明するなど、容認しない理由を提示すると説得力が増します。
経営者層が旗振り役になることも大切です。

例えば、現場で問題のある言動を見かけたときに注意をするなどが考えられるでしょう。
具体的な行動を起こすことで従業員に本気度を伝えられます。

 

③現状・実態を把握する

効果的な対策を実施するため、現状や実態の把握が欠かせません。
現状・実態の把握には、匿名方式のアンケートが有効です。
回答者に「不利益な扱いをされるのでは」などの不安を与えにくいため、現状・実態を正確に把握しやすい強みがあります。

アンケートを実施するときは、対象者に偏りが生じないように注意が必要です。
何かしらの事情でアンケートを実施できない、あるいはアンケートの回収率が低い場合は、産業医から情報を集めてもよいでしょう。

 

④相談窓口を設ける

被害者が相談できる窓口を設けておくことも必要です。
ただし、単に開設するだけでは従業員にその存在を知ってもらえません。
さまざまな方法で周知することが大切です。自社だけで対応できない場合は、外部の専門家へ相談業務の委託を検討するとよいでしょう。

第三者へ委託することで従業員が相談しやすくなることと専門的な対応を期待できることが魅力です。

 

⑤パワハラ教育を実施する

パワハラに関する教育を実施することも有効です。
ポイントは、できる限りすべての従業員が受講することと定期的・継続的に実施することといえるでしょう。
入社時の研修プログラムに組み込むと、全ての従業員が1度は受講することになります。
入社時の研修に、経営者層のメッセージや社内のルールを組み込むとよいかもしれません。

立場によりパワハラとの関わりは異なるため、階層別に研修を実施することも効果的です。
教育内容に悩む場合は、外部の専門機関に相談するとよいでしょう。

 

パワハラの相談を受けたら?

 

従業員から相談を受けた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
基本的な対処の方法を紹介します。

 

①対応方法の明確化

相談が寄せられたときに備えて対応方法を予め決定しておきます。
相談窓口と連携する部署を決めておくことに加え、相談者の話を傾聴する、相談者の意向を確認する、プライバシーを保護する、不利益な扱いをしないなど、二次被害を防ぐ具体的な対応方法まで検討しておくことが大切です。

 

②事実関係の確認

事前に定めた対応方法に従い事実関係を確認します。
具体的には、相談者の了解を得て、行為者に事実関係を確認します。
主張が食い違うなど、必要が認められる場合は第三者からもヒアリングを行わなければなりません。
被害を継続・拡大させないため、事実関係を迅速に確認することが大切です。

 

③行為者・相談者への措置検討

事実関係を踏まえて、行為者と相談者の措置を検討します。
判断のポイントは、会社が定めているルール、対象となっている言動の内容、実際に生じている被害の大きさなどです。
行為者への措置は、ルールに従い実施することが大切です。

行為者に対する措置の例として、被害者への謝罪、配置転換、懲戒処分、相談者に対する措置として不利益の回復、専門家によるメンタルケアなどが考えられます。

 

④行為者・相談者へのフォロー実施

行為者と相談者に対して、会社の取り組みを説明します。
双方から理解を得るポイントは、ルールに基づいて対処することといえるでしょう。
不満を感じる点があったとしても、ルールに基づき対処している場合は納得せざるを得ないと考えられます。

また、行為者に対しては、問題になった言動を説明することも求められます。
改善点がわからなければ、今後も同じ過ちを繰り返す恐れがあるためです。

 

⑤再発防止策の検討・実施

最後に、再発防止策を検討して実施します。
事案が発生した理由を見極めて対処することが重要です。
事実確認の結果、パワハラと認められなかった場合も、防止措置の見直しを行います。
大きなトラブルに発展する予兆と考えることもできるためです。

見直しを徹底することで、トラブルが起こりにくい体制にできる可能性があります。

 

ハラスメントの防止方法を検討しましょう

 

ここでは、ハラスメントの概要とその防止方法について解説しました。
ハラスメントは、相手に嫌な思いをさせたり相手の尊厳を傷つけたりする言動です。

労働施策総合推進法の改正を受けて、2022年から中小企業もハラスメント防止措置を義務づけられました。
ルールに従い体制を整備することが求められます。
自社にノウハウがない場合は、社会保険労務士をはじめとする専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

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[1]出典:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」

 

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