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公開日:2024.06.29

更新日:2023.11.20

ハラスメント(パワハラ)における会社の責任と講じておくべき措置

 

職場でハラスメント(パワハラ)が発生したときに備えて、会社の責任を確認しておきたいと考えている方は多いでしょう。
会社の責任がわかれば、具体的な対策をたてやすくなります。
パワハラに関連して会社が負う可能性のある主な責任は、使用者責任・不法行為責任・債務不履行責任の3つです。
ここでは、パワハラの定義を説明するとともに会社の責任と会社が講じるべき措置などを解説しています。
トラブルに備えたい方は、確認しておきましょう。

 

パワーハラスメント(パワハラ)とは?

 

労働施策総合推進法第30条の2で、パワーハラスメントは次のように定義されています。

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること

引用:e-GOV法令検索「昭和四十一年法律第百三十二号労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

以上に該当する言動を、パワーハラスメントというのです。
ここでいう「職場」は、労働者が業務を行う場所を指します。毎日、通勤するオフィス以外でも、業務を行う場所であれば職場と考えられます。
ここでいう「労働者」は、事業主が雇用する全労働者です。正社員・パート・アルバイトなどの区別はありません(派遣社員も対象です)。
「優越的な関係」は、抵抗や拒絶が難しい関係です。
上司はもちろん、同僚や部下であっても関係性によっては該当します。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」は、業務上の必要性が認められない、またはそのありさまが相応しくないものを意味します。

 

パワハラの6つの行為類型

パワハラの状況はさまざまですが、代表的な行為の類型として以下の6つがあげられます。[1]

行為の類型 行為の例
身体的な攻撃 上司が部下に対して暴力をふるう
精神的な攻撃 上司が部下に人間性を否定するような言動をする
人間関係からの切り崩し 思い通りにならない社員を仕事から外したり別室に隔離したりする
過大な要求 長期間にわたり非現実的なノルマを課して達成できないと人前で罵倒する
過小な要求 上司が部下を退職に追い込むため新入社員と同じ職務に配置替えをする
個の侵害 特定の政党を支持していることを理由に、当該従業員を監視したり、当該従業員との接触を制限したりする

ただし、行為の類型に分類できたとしても、優越的な関係を背景としていないなどの場合は、該当しないと考えられます。
パワハラと認められるには、労働施策総合推進法第30条の2で定められた3つの要素をすべて満たす必要があります。

 

パワハラが起こる理由・背景

厚生労働省は、委託事業として行った「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」でパワハラが起こりやすい職場の特徴を調べています。[2]
「現在の職場でパワハラを受けた人」と「過去3年間に勤務先でパワハラを経験しなかった人」にわけて、職場の特徴を調べている点がポイントです。
同調査によると、リスクの高い職場の特徴は次の通りです。

特徴 現在の職場でパワハラを受けた人 過去3年間に勤務先でパワハラを経験しなかった人
上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない 37.3 15.1
残業が多い/休暇を取りづらい 30.7 13.4
業績が低下している/低調である 28.6 15.4
従業員の年代に偏りがある 27.2 16.9
失敗が許されない/失敗への許容度が低い 23.7 7.0

古い体質や仕事のストレスが背景といえるかもしれません。
起きる理由として、労働者の権利意識の高まりと知識の普及もあげられます。
これらにより、見過ごされてきた行為が問題視されようになっています。
企業は、慎重に対応しなければなりません。

 

パワハラがもたらす悪影響

 

被害者・行為者に加え企業にもさまざまな悪影響をもたらします。
被害者は、働く意欲を失うことや能力を発揮できなくなることが考えられます。メンタル面の不調や離職も想定されるでしょう。
行為者は、周囲からの信頼を失ってしまいます。
仕事への影響はさまざまですが、管理職であれば部署が機能しなくなることも考えられます。

以上の結果、組織の生産性は低下するでしょう。職場の雰囲気が悪化して、モチベーションが低下してしまうためです。
もちろん、当該部署や当該従業員が機能しなくなることも影響します。
一方で、離職率は上昇する可能性が高いといえます。
職場の雰囲気に嫌気がさしたり、会社を信頼できなくなったりする従業員が増えるためです。
被害者から損害賠償請求される恐れもあります。
パワハラには、適切に対処することが重要です。

 

パワハラが起きた際に企業が負う社会的な責任

 

職場でパワハラが発生すると企業にも責任が生じます。ここでは、企業が負う責任について解説します。

使用者責任

使用者責任(使用者等の責任)は、民法第715条で次のように定義されています。

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

引用:e-GOV法令検索「明治二十九年法律第八十九号民法」

したがって、従業員の行為でも、企業(使用者)は責任を問われる恐れがあります。
ただし、従業員の全ての行為において責任を問われるわけではありません。
使用者責任が発生するのは、従業員の行為が事業の執行に関わっているときです。

 

不法行為責任

パワハラを行った従業員は不法行為責任を負います。民法第709条で不法行為は次のように定められています。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:e-GOV法令検索「明治二十九年法律第八十九号民法」

従業員の行為が会社の意思に基づく場合、当該行為は会社によるものと考えられます。つまり、このようなケースで会社は不法行為責任を負います。損害を賠償する責任を負う恐れがあるため注意が必要です。

 

債務不履行責任

労働契約法第5条で、使用者は労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものと定められています(安全配慮義務)。
したがって、パワハラが発生した場合、企業は債務不履行責任を負うと考えることもできます。
債務不履行責任は、契約(ここでは労働契約)で約束した義務を果たせなかったときに負う法的責任です。
安全配慮義務を果たさなかったことが関係している場合は、債務不履行責任にも注意が必要です。

 

パワハラの加害者への対応

 

職場でパワハラが発生した場合、担当者が被害者と行為者からヒアリングをして事実関係を確認します。
主張が異なる場合は、第三者へのヒアリングも必要です。
パワハラが認められた場合は、懲戒処分を検討します。
ポイントは、就業規則や労働契約に基づき処分することです。懲戒処分には以下の種類があります。

【懲戒処分の種類(処分が軽い順】

  • 戒告
  • 譴責
  • 減給
  • 出勤停止
  • 降格
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

行為に対して処分が重すぎる場合は、権利を濫用したとみなされるため、その処分は無効になります。
合理的に判断することが大切です。

 

「パワーハラスメント防止法」の概要と企業に求められる措置

 

2019年に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(パワーハラスメント防止法)」が改正されたことを受けて、2022年4月からすべての企業においてパワーハラスメント防止措置が義務化されました。
同法は、パワハラを定義するとともにその防止措置を義務付けた法律です。企業は以下の措置などを講じる必要があります。[3]

 

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

◆内容・方針

以下の点について、周知・啓発を求められます。

【周知・啓発】

  • 職場におけるハラスメントの内容
  • ハラスメントを行ってはならないとする方針

周知・啓発の対象は、管理監督者を含む労働者です。

◆対処の方針と内容

行為者に対する方針とその内容を、就業規則などに規定して周知・啓発することも求められます。
周知・啓発の対象は同じです。

 

相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

◆窓口の設置

ハラスメントの相談窓口を開設して、これを労働者に周知することが求められます。
例えば、担当者をあらかじめ決めておく、外部の専門機関へ依頼するなどが考えられるでしょう。

◆体制の整備

相談窓口の担当者が、相談内容やそのときの状況に応じて対応できる体制を構築しておく必要もあります。
ハラスメントの恐れがある場合やハラスメントと言い切れない場合も対応しなければなりません。

関連記事>>職場におけるハラスメントの防止方法と相談をうけたときの対処法

 

職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

◆迅速かつ適切な対応

ハラスメントが発生したときは、事実関係を迅速かつ正確に把握しなければなりません。
相談窓口と実際に対応する担当者が、どのように連携するか予め定めておくことが重要です。

◆被害者と行為者への対応

ハラスメントの事実が認められた場合は、被害者に対する措置と行為者に対する措置を実施します。
行為者に対する措置は、就業規則など、ルールに基づき行わなければなりません。

◆再発の防止

ハラスメントの事実が認められた場合も認められなかった場合も、再発防止に向けて周知・啓発などを徹底します。
これまで実施してきた措置では、対応しきれていない可能性があるためです。

 

上記の措置と合わせて講ずべき措置

◆プライバシーの保護

相談者・行為者などのプライバシーを保護する対策を実施して、その旨を労働者に周知します。
労働者が安心して相談できる環境を作ることが大切です。

◆不利益な扱いをしない

相談・協力などにより、不利益な扱いをされないことを定めて、これも周知・啓発しなければなりません。
ハラスメントに関する相談などを理由とする不利益な扱いは法律で禁止されています。

 

組織内でパワハラを起こさないために

基本の対策は、パワハラの内容を周知することです。
自身の行為が該当すると気づいていない労働者は少なくありません。
例えば「過去の上司をモデルに、部下を厳しく指導する」などが考えられます。昔は当たり前だった指導法が問題になることもあります。
理解を深めれば、意図しないパワハラを防ぎやすくなります。

相談窓口を設置して、実際に稼働させることも大切です。
単に設置するだけでは、トラブルの芽を発見したりトラブルを防いだりすることはできません。
周知を徹底して、誰でも相談しやすい環境を作ることが大切です。
実際に稼働して認知度が高まれば、問題行動の抑止力になることも期待できます。

 

パワハラの措置を講じましょう

 

ここでは、ハラスメントの中でもパワハラに焦点を当てて会社の責任などを解説しました。
従業員が行ったパワハラであっても、会社が責任を問われることはあります。
損害賠償請求される恐れもあるため十分な注意が必要です。
2022年からすべての企業においてパワハラ防止措置が義務付けられています。必要な措置を講じて、労働者が安心して働ける環境を作ることが大切です。

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[1]出典:厚生労働省雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」
[2]出典:厚生労働省「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」
[3]出典:厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」

 

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