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公開日:2024.06.22

更新日:2024.09.02

IPOで必須の労務デューデリジェンス(労務DD)とは?チェックリストや費用も解説

労働環境の見直しが重視される近年、従業員の労働条件や人事制度を調査する、労務DDの必要性が高まっています。

今回は、M&Aや株式上場に備えた準備にも不可欠な「労務デューデリジェンス」について解説します。

 

労務デューデリジェンス(労務DD)とは?

労務デューデリジェンス(労務DD・労務Due Diligence)とは、企業の人事や労務に関する実態を知るための調査のことです。企業の労働環境や雇用関係について、問題点やリスクを特定し、問題解決の提案やリスク回避策を提示することを目的として行います。

労務デューデリジェンス(以下、労務DD)は、M&A(企業の合併や買収)やIPO(株式公開)などの取引において、企業評価や投資判断に欠かせない要素とされています。

労務デューデリジェンスが必要な理由

 

労務DDは、M&A(企業の合併や買収)や事業売却、投資などの際対象企業の価値を正確に把握するために欠かせないプロセスです。

たとえば、労働関係における法的リスクがないか、労働環境や雇用関係に問題がないかなど、企業の状況を客観的に把握するために、労務DDが必要となります。

具体的には、賃金の支払いや休日・休暇の取得は適正に行われているか、給与体系や雇用形態などは適切か、企業が従業員の健康や安全に配慮しているかなどを調査します。企業の労働環境や雇用関係に関する問を洗い出し、解決策を提案することが労務DDの目的です。

また、労働環境の改善が実施されていることは、企業の社会的評価向上にもつながります。

労務デューデリジェンスが必要なタイミング

労務DDが必要となるのは、企業の価値や問題点を明確にする必要があるときです。

労務DDは、企業にとって重要なリスクマネジメントの手段でもあります。適切なタイミングで行うことで、企業のリスクを最小限に抑えることもできます。

具体的に労務DDが必要となる主なタイミングを3つご紹介します。

①IPOの準備をすすめるとき

労務DDは、IPOの準備段階でも必要となります。IPOとは、企業が初めて株式を上場することをいい、上場の基準は厳しく、法令違反があれば上場することができません

上場申請までの準備にも時間を要し、数年かけて進めていきます。

IPOの準備段階では、まず監査法人や公認会計士によるショートレビュー(予備調査)が行われます。ショートレビューとは、株式上場に向けて、企業の課題を洗い出す調査のことです。

このショートレビューが行われた後、労務DDに取り組み、上場企業の基準に何が達していないかを明確にしていきます。

IPOの際には、有価証券報告書(Ⅱの部)を作成する必要もあります。有価証券報告書とは、株式を発行する上場企業が開示する企業情報で、事業の状況や財務諸表などを投資家に開示するために作成するものです。

そのため、事前に労務DDを行い、法令の遵守状況や、労働環境、待遇などの問題点を明確にし、改善策を講じることが必要です。

IPOは企業にとって重要なイベントです。労務DDを適切に実施することで、投資家からの信頼を得るとともに、企業価値の向上も期待されます。

関連記事:上場(IPO)準備のスケジュール!上場までにやることとは?

②M&Aを目指すとき

労務DDは、M&Aが成功するかどうかを決定づける、非常に重要なプロセスです。

M&A(企業の合併・買収)の際には、対象企業の労務状況を正確に把握することが重要です。そのため労務DDを行い、内在するリスクなどを確実に洗い出していきます。

労務DDの目的は、買収後のトラブルやリスクを回避することです。労務DDにより、買収先企業の労働環境や給与体系、従業員の問題点などを把握し、必要に応じて改善策を講じます。

 

特に近年は、労働法や労働環境の改善が進んでいます。そのため、従業員の雇用形態や待遇など、労務に関する情報は企業の経営に直結する重要な要素です。M&Aによる企業統合においても、合併・買収後の人事・労務戦略の決定に大きく影響します。

M&Aにおいて、労務DDの実施は義務ではありません。しかし、対象企業の労務状況は、投資価値や財務指標にも影響を与えます。そのため、買収後にトラブルが発覚し大きな損害を被らないためにも、M&Aにおいて労務DDの実施は不可欠といえます。

③労務コンプライアンスを確保するとき

労務は主に、IPOとM&Aに備えて実施されますが、労務コンプライアンスを確保するためにも労務DDが必要です。

労務コンプライアンスとは、企業が労働法令や労働契約などの法的義務を遵守し、労働管理を行うことを意味します。労務DDを実施することで、企業の労働環境が改善され、企業価値が高まり、従業員の満足度も向上します。

企業の社会的価値が高まることで、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。

このように、自社で労務DDを行うことは、労務コンプライアンスの観点からも非常に有効的な手段といえます。

労務デューデリジェンスのチェックリスト

企業の問題点や潜在的リスクを洗い出すための労務DDですが、労働関連の法令は多数あり、労務DDを行う際のチェック項目も多岐にわたります。

企業の規模や業種、状況によってもチェック項目は異なりますが、ここでは一般的なチェック項目をご紹介します。

なお、下記に挙げたチェック項目はあくまでも一例です。厳密に労務DDを行う際には、膨大な法令や規定についての専門知識を要します

1.雇用

従業員の雇用形態(正社員、契約社員、パート、アルバイト等)の基準、労働契約の整備などが適切に行われているかなどを確認します。

雇用に関する契約書類や労働条件について、法令に適合しているか、さらに、高齢者雇用障害者雇用等の状況、最低賃金などについてもチェックします。

2.就業規則

企業のルールや規定を定めた就業規則があるか、内容が適切か、実際の勤務条件に沿っているかを確認します。

また雇用形態ごとの、規則の整備状況や周知方法なども確認します。

3.労働契約 従業員との労働契約が適切に締結されているか、雇用形態に応じた必要な条項が含まれているか、違法性のある条項がないかなどを確認します。
4.労働時間

労働時間が法令に適合しているか、法定労働時間や残業時間、休憩時間が守られているかをチェックします。

また、時間外労働の実態(サービス残業の有無、勤怠システムの運用など)も確認します。

5.休憩・休日 従業員に対する休憩・休日の取得状況が、法令に適合しているか、確実に取得されているかを確認します。
6.休暇・休業
法律で定められた年次有給休暇の取得状況や、その他休暇の取得状況、産休、育児休業、介護休業制度の整備や実施状況をチェックし、従業員の権利を侵害していないかを確認します。
7.人事制度・賃金制度

人事考課(従業員の評価制度)、昇進制度などの評価基準や実施状況などを確認します。

さらに、賃金計算の整備状況や賃金水準の妥当性、昇給・賞与の仕組み、退職金制度の実施状況なども含まれます。

8.賃金
正当な賃金の支払いが行われているかどうか、残業代や深夜労働手当、休日労働手当などの支払いが適切に行われているかどうかをチェックします。
9.退職・解雇・懲戒
退職や解雇、懲戒処分に関する手続きや規定が整備されているかどうか、退職金や社会保険の手続きが適切に行われているかどうか、さらに実施状況などを確認します。
10.安全衛生管理
安全衛生管理者や産業医の選任状況、労働災害・事故の対応体制や発生状況、健康診断や健康管理に関わるイベントの実施状況などについて確認します。
11.ハラスメント

職場でのパワーハラスメント、セクシャルハラスメント、いじめなどの問題が発生してないかどうかをチェックします。

社内で、ハラスメント防止のための規定や教育、取り組みが行われているかどうかも確認する必要があります。

労務デューデリジェンスの流れ

 

次に、労務DDの一般的な手順7つについて解説します。

労務DDにかかる期間は、おおよそ3ヶ月程です。ただし、実際の労務DDにおいては、取引の目的や対象企業の状況に応じて、手順や内容、期間が変わることがあります。

1.労務デューデリジェンス実行の決定

労務DDを行うには、弁護士や税理士、会計士、社労士など、さまざまな専門家が関わり、多大なコストや時間がかかります。そのため、労務DDを行う必要性やメリットを事前に明確にしておくことが重要です。

労務DDの目的を明確にしたうえで、実施が望ましいと判断した場合、専門業者へ依頼をかけます。

また、どのような点が問題となりそうかなど、調査範囲を明確にしておくことも重要です。

2.必要書類・資料・データの提出

労務DDの実施が決まったら、企業の人事・労務に関するデータや資料を収集し、提出します。

提出が必要となる資料は多数ありますが、主な資料としては、法定帳簿・法定書類、就業規則、安衛法関連書類、労使協定などが挙げられます。

参照:厚生労働省|労働基準法で規定された代表的な4帳簿

3.調査機関によるデータの確認

調査機関は、企業から提出された資料やデータを精します。

たとえば、労働時間や休日などの実態確認、雇用形態と就業実態の適法性、人事制度の概要など、調査項目に沿って企業の状況を把握・分析していきます。

4.ヒアリング・現地調査

さらに、資料やデータだけでは把握できない点を、企業の担当者へ直接ヒアリングします。必要に応じて、調査機関が実際に企業を訪問して、現地調査を行います。

ヒアリングでは、労務管理に関する情報や問題点を聞き取り、現地調査では、労働条件や作業環境などを実際に確認します。

ヒアリングや現地調査は、従業員の労務管理体制や労働環境など、データ上では見えてこない実態を把握するために重要な調査です。

5.問題点の整理

調査結果をもとに、洗い出した問題点を整理し、問題点の重要度に応じて優先順位をつけます。

問題点の整理は、労務DDの成果を明確に示すために大切な作業です。

6.レポート作成と報告会

整理した問題点をまとめた、労務DDレポート(報告書)を作成します。労務DDレポートには、労務DDの分析結果や戦略などがまとめられています。

レポートが完成したら、報告会を開催し、報告書の内容を関係者に説明します。

報告会では一般的に、レポートの概要や具体的な解決策・改善策などが解説されます。報告会では、企業側からの質問や意見交換なども行います。

7.問題解決の実行

レポートで報告された問題点について、改善策の具体的な実施計画を策定し、問題解決の取り組みを実行していきます。

具体的には、長時間労働の是正、未払い残業代問題などへの対応など、労務管理体制の改善を進めます。

問題が明確になったら、できる限り早く改善の取り組みを始めることが重要です。

労務デューデリジェンスを依頼する費用相場

 労務DDは、一般的には外部の専門家に依頼します。労務DDを実施する専門家とは、社労士、弁護士、税理士、コンサルティング会社などです。また、M&Aアドバイザリーや労働法律事務所なども、労務DDをサポートすることがあります。

労務DDにかかる費用は、決して安いとはいえない金額です。依頼する際は、企業のニーズや目的、調査内容に応じて、適切な専門家に依頼しましょう

また、ご紹介する費用相場は、調査範囲や期間、調査する項目、企業規模や業種などによって大きく異なります。

社労士に依頼する場合

労務DDは、社労士に依頼することができます

社労士は、社会保険や労働関連の法律など、人事・労務に関する専門家です。そのため、人事労務のプロとして、法的観点から徹底的に調査することができ、法令遵守や労務管理の問題点を的確に把握することができます

社労士は、労務DDに必要な法的な知識を有しており、適切かつ専門的な調査を行うことができるため、企業にとって頼れるパートナーと考えられます。

社労士による労務DDの費用相場は、一般的に60万〜80万円程度です。

1時間あたりでは、2万〜10万円ほどと考えられます。

費用は対象企業の規模、調査の範囲や上場する市場により変動します。

HRプラスの人事労務相談の顧問費用についてはこちら

その他の専門家に依頼する場合

労務DDは、弁護士に依頼することも可能です。弁護士に依頼する場合は、労務問題の対応実績がある弁護士を選ぶ必要があります

ただし、弁護士に依頼する場合、社労士や会計士と比較すると、費用が高額になる傾向があります。一般的な相場としては、500万〜1000万円程度とされていますが、調査範囲や期間、調査項目などによって異なります。

また、M&Aを専門とするコンサルティング会社では、M&Aに関連するDDサービスを提供していることもあります。

費用としては、規模や内容によって異なりますが、M&A対応の一部となるため、数百万〜数千万円が相場とされています。

労務デューデリジェンスは専門プロフェッショナルに依頼を

 M&AやIPOを検討する場合には必須の条件であるものの、専門性が高く、社内の知識だけで対応することは難しい場合もあります。

必要なタイミングにおいては、専門家の支援を受けつつ、効率的に労務DDを実施していきましょう。

実際にM&AやIPOの実績がある専門家へ、依頼をするのがおすすめです。

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